「あと5分……」

目覚まし時計が私をいじめる。だって、一旦黙ったと思えば、また直ぐに大きな音を立てて夢の世界から引きずり出そうとするんだもん。まだまだ寝足りなくて、もう一度全身を布団に潜り込ませようとすると、ドアの向こうからお母さんの若干苛立ちを含んだ声が私の名を呼んだ。

「名前ー?いい加減起きなさい。あんた、今日大事なテストがあるんじゃないの?」
「え……?うあぁッ……!!」

その言葉に数秒間息が止まった。そうだ。今日は試験の最終日で、しかもこのテストで悪い点を取ったら確実に単位を落としてしまう。そんな危機感のお陰ですっかり目が覚めた私は慌てて部屋から飛び出した。

「お母さん!今何時?!」
「え?えっと…、8時30分だけど…」

試験開始は9時ちょうど。そして、家から大学までは歩いて20分。朝ごはん抜いて、メイクも諦めて、死ぬ気で走れば今からでも学校に間に合う。微かに見えてきた希望に自然と口元が緩んだ。
こうとなったらモタモタしてられない。先ずは洗面所で顔を洗わなければと走り出すと、「大学生にもなって困った子ねぇ」なんてお母さんの呆れた声が聞こえた。

「ほら!そんなに慌てて、階段から落ちても知らないわよ」
「だいじょー…、え…?きゃあッ……!!」

たぶん、スリッパを履いたまま階段をおりようとしたのがいけなかったんだろう。あと数段を残した場所で私は頭を下にして落ちていった。これから叩き付けられるであろう木目の床が何故かスロモーションで近付いてくる。遠くではお母さんが私の名前を喉が切り裂けてしまいそうなほど大きな声で叫んでいた。

もっと大学生活を楽しみたかった。彼氏作って、デートとかしてみたりさ。それで、大学卒業したら働いて、大好きな人と結婚して、子供も二人くらい欲しかったな。

「私…死んじゃうのかな…」

私は襲い掛かる虚しさにギュッと目を閉じた。

最後の1秒
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