「テスト終了っ!!!」

 テスト期間が終わったときの開放感とはなんとも心地よい。明日から夏休みということも関係しているのかな。
 そんなことを考える私は、大学の敷地内にある図書館へと向かっていた。友人からは、ぱーっと美味しいものでも食べに行こうと誘われていたのだけど、私は調べものがしたいからまた今度誘ってと断ったのだ。
 しん、と静まり変えた図書館を控えめな足音で歩き、目的の本棚を探す。そして、大型の図鑑が並ぶ棚までくると、私は最も分厚い植物図鑑を引っ張り出して手近な机に腰掛けた。

「ん……、どれだろう……」

 私の左手には例の押し花がある。そして、それと同じ花を探しながらゆっくりとページをめくっていた。この花のことがわかれば、自分がどうしてこの押し花を持っているか判明する気がしたのだ。
 身に覚えのない押し花であったけれど、不思議と気味が悪いと感じることはなかった。それよりも、なんだか幸せでちょっぴり泣きたくなるようなそんな気持ちが心を満たす。

「あ……。これかも……」

 同じ花びらの色、見た目もそっくり。きっとこの花に違いない。
――シオン
 私はその花の名前を人差し指でそっとなぞった。

「花言葉は……、君を忘れない、か……」

 なんだろう、息苦しさは。この花のことを思い出そうとすると、胸が締め付けられて苦しい。思い出したい、思い出さなきゃ。

『必ず名前を元の世界に帰してやる』

「っあ……!」

 初めて聞いたはずなのに、どこか懐かしい声が私の名を呼んだ。

「ぎん、とき……?」

 その名前を小さく呟いた瞬間、塞き止めていた水が溢れ出すみたいに、彼と過ごした記憶が脳内に蘇った。
 彼はいつも私の味方で、落ち込む私を励ましてくれて、そして好きだといってくれた。

「忘れない、忘れないからっ……。銀時……」

 ここではないどこか別の世界で、初めて恋した人。
 貴方との思い出を、貴方のことを忘れない。

紫苑

Fin.
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