押し花作りなんて何年ぶりだろう。私が小学校低学年の頃には、そこら辺に咲いていた花を摘んでは電話帳の間に挟んで押し花を作っていたような気がする。まさかこの歳になって押し花を作るなんて思ってもみなかったな。

「名前殿、その花は一体どうしたのだ?」
「昨日の夜、銀時がくれたんです」

昨晩の喜びを思い出すようにお花を眺めていると、私の正面に座っていた桂さんが不思議そうに問い掛けた。私の返答に彼は「あの銀時がそんなことを…」と何故だか驚いたような表情をしている。

「何かおかしい所があるんですか…?」
「あ、いや…。そういうわけではないんだが…」
「お前、知らねーのか?」
「あ、高杉さん…!お帰りなさい」

戦から帰ってきた高杉さんは部屋に入ってくると同時に私達の会話に参加してきた。

「アイツはよォ、周りの連中から白夜叉って呼ばれてんだ」
「しろ…やしゃ?」
「あぁ。一度戦場に立てば、自分以外に立ち上がる者がいなくなるまで、まるで夜叉のように刀を振るう…。そんな姿から白夜叉と呼ばれ、尊敬…もしくは恐れられているのだろうな」
「ククッ…。そんなヤツが女に花を贈るなんて、さすがに俺達だって信じられねェよ。なァ、ヅラ?」
「まぁな」
「そうなんですか…」
「ちなみに、ヅラは狂乱の貴公子なんて呼ばれてやがる」
「貴様とて鬼兵隊の隊長として十分恐れられているではないか」
「………」

私が知っているのは、いつも楽しそうに笑っている彼らだけ。戦場に立つ姿なんて見たことない。だから、2人の話を聞いても、まるで別の人達の話を聞いているような気がしてしまった。淡々と敵を殺している姿なんてとても想像できない。
私の居るべき世界とこの世界は違う。だから、戦争はやめるべきだとか、敵を殺めることは悪いことだなんて言うつもりは全くない。けれど、本当は誰よりも心優しい彼らが、恐ろしい人と勘違いされてしまっているなんて、どうにも納得できなかった。

「あ、あの…」
「どうした、名前殿?」
「私…ちゃんと知ってます!桂さんも高杉さんも坂本さんも銀時も…。皆さん、本当はすごく優しい人なんだって!」
「は……?」
「私みたいな戦争を知らない小娘に言われたって何にも嬉しくないかもしれないけど……、でも!少なくとも私は皆さんがいい人だってちゃんと知ってます!だから…その…。周りの人から怖い人だって恐れられていても、落ち込んじゃダメですっ…!」

頭の中で言いたいことを上手くまとめられないうちに自然と言葉が口から溢れ出していた。たぶん、息継ぎもしていなくて、知らぬうちに心臓がバクバクと大きく動いていた。
念を押すように2人を見ると、唖然としていたらしい彼らは突然何かを堪えるようにクツクツと笑い出した。

「えっ…?あの…、わ、私…、何か変なこと言いましたか…?」
「いや、名前殿は何もおかしなことは言っていない。ただ、銀時が名前殿に親身に接する理由がわかったような気がしてな」
「だな。俺ら相手にンなこと言えるのはお前だけだ」

やっぱり笑っている彼らは本当に素敵だ。しかも、その笑顔を私が作れたってことがなおさら嬉しい。胸がキュンと締め付けられるような感覚がした。
そんな喜びに満たされながら、私は二つ折りにした和紙に丁寧に銀時から貰ったお花を置くと、桂さんから借りた本の間にそっとそれを挟み込んだ。

優しさの思い出
  mokuji  
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