私がお世話になっているこの小屋には、小さな縁側がついている。夕食の片付けを終えた私は、とくにすることもなかったので一人その縁側に腰掛けて夜空を眺めていた。

あと少しで真ん丸になるお月様も小さな星の一つ一つも、私がいた世界から見るそれと何ら変わりない。だから、こうやって夜空を眺めていると、今までの出来事は全部ただの夢だったんじゃないかってふと思えてくる。

「なーにぼけっとしてんだ?」

瞳に映していた月を隠すように、私の視界いっぱいに銀時の顔が入り込んできた。予想外の出来事に、私の口から「きゃっ」なんて小さな叫びが飛び出てしまった。

「ぎ、銀時…!もう!脅かさないでよ!」
「ははっ…。わりぃわりぃ。口から魂が抜け出ちまうんじゃねーかってくらいに間抜けな顔してたからよ」
「うっ…。そんなに阿保面してた、私?」

私の問い掛けに彼はニヤリと笑って頷いた。変なところを見られちゃったな、と後悔のような感情が私の顔を困ったように歪めた。

「高杉から聞いたんだけどよぉ」
「ん…?」
「お前、帰る方法見つけるために何かしてたんだって?」
「う゛……!高杉さん、銀時に話しちゃったの…?」
「聞いちゃマズイことだったのか?」
「あ、いや…。そういうワケじゃないけどさ…。岩から何回も飛び降りてたー、なんて聞いたら、さすがに馬鹿だなって思うでしょ?」
「そんなこと思うわけねーだろーが。自分のために必死になってなんかしてるヤツを馬鹿にするなんて最低の野郎がすることだ」

語勢を強めた銀時の瞳は真っ直ぐに私を捉えた。その瞳から目を離すことなんてできない。まるで吸い込まれてしまうんじゃないかって錯覚に陥ってしまうような気さえした。

「それに、俺ァ、名前と高杉の間に2人だけの秘密事があるのも気にくわねーしな」
「え……?」
「あ。お前にさ、これ、やるよ」

口元に小さな笑みを浮かべた銀時は、手にしていた何かを私の手の平にそっと置いた。
暗くて何があるのかよく見えない。ただ、重さなんて感じないほど小さなものであることはわかった。

「なんだろ…これ」

手を動かして部屋から漏れる明かりに照らしてみると、銀時に渡されたのは小さな花であることが判明した。ほんのり紫色した花びらがとても可愛らしい。
どうしたの?と問い掛けるような視線を銀時に向けると、彼は照れるようにはにかんで、私の頭をぽんぽんと2度撫でた。

「その花さ、今日戦場になった場所にポツンと咲いてた。そんで、一人で留守番してる名前を少しでも喜ばせてやりてぇって思ったんだ。それに、あのままあそこに咲いていても、戦の途中に誰かに踏まれて枯れちまうだろうしな」

気に入ってもらえたか?とちょっぴり不安の色を瞳に浮かべた銀時に対して、私は大きく頷いた。

「もちろん…!このお花、枯れちゃうと寂しいから、押し花にしてずーっと大切にするっ!」

あまりの嬉しさに声がいつもよりずっと上擦ってしまった。まるで子供みたいだって思われちゃったかな。でも、この喜びを押さえ込むことなんてできないんだから仕方ない。
もう一度ありがとうと感謝の気持ちを伝えると、私は名前も知らないその花を、夜空に浮かぶ月に向けて誇らしげにかざした。

一輪の花
  mokuji  
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