この世界にやってきて最初に迎えた朝。彼らの役に立つにはどうしたらいいのかと一晩中考えた結果、私にできるのはせいぜい家事くらいだろうという結論に至った。
そして、さっそく今日の食事当番である桂さんに朝食作りをやらせてくれないかとお願いすると、彼は快くそれを承諾してくれた。

「えーっと…、ここにある食材は、大根、にんじん、じゃがいも、味噌にお米……だけ…ですか?」
「あぁ。これだけだ。なんたって、戦争中だからな」
「あっ……!」
「味噌汁に食材を放り込んでくれれば構わない。それでは、名前殿、後はよろしく頼む」
「は、はい…」

今は戦争中だということをすっかり忘れていた。それなのに「これだけ」なんて言ってしまった自分にちょっぴり腹が立った。
刀の手入れをしてくると言って台所を去っていった桂さんを見送ると、私はまな板の上に大根を乗せた。

「まずは大根から…っと」
「おっ…!名前が食事当番してんのか。なんか、本当に嫁入りしたみてーだな」
「あ!おはよう、銀時。桂さんにお願いして、食事当番を替わってもらったの。少しでもみんなの役に立ちたくて…」
「そうか…。んじゃ、今日の朝飯を期待してるぜ」
「うんっ!」

頑張れよと言ってくれた銀時に笑顔を見せると、私は包丁を握った。
ちょうど半分になる辺りに包丁を入れてみるも、思ったよりも大根は固くてなかなか刃が動かない。全体重をかけるように力を込めると、ごすんと、鈍い音を立ててようやく大根が切れた。お母さんが料理をしている時は、トントンと軽快で心地好い音が聞こえてくるのに、どうしてこうなっちゃうんだろう。
手を切ってしまわないよう、ゆっくり慎重に大根を切っていると、背後で私の様子を見ていたらしい銀時の溜息が聞こえた。

「お前さ…、」
「えっ…?」
「料理とか全然やらねーんだろ?」
「ど、どうだろうなー…。あはは…」
「ばーか、とぼけんな。見りゃわかる」
「いてっ…」

銀時は仕方ねーな、と言いながら私の頭をコツンと叩いた。そして、私の手から包丁を取り上げると、慣れた手つきで大根を切り始めた。

「銀時がやっちゃダメだよ…!私が桂さんから引き受けた仕事なんだもん」
「お前なぁ、そんなペースでやってたら、朝食が昼食になっちまうぞ?」
「うぅ…」
「だから俺も手伝う。名前はじゃがいもの皮を剥いてくれ。それくらいならできんだろ?」
「はーい…」

ちょっぴり腑に落ちなくて、しぶしぶ返事をすると、もう一つあった包丁を手に取った。
役に立ちたい一心で食事当番を始めたのに、結局銀時に迷惑をかけてしまった。隣に居る銀時は、それこそお母さんみたいに包丁を扱っていて、私はダメダメだなーって、なおさら思ってしまう。

「なぁ、名前?」

私が何度か溜息を零した頃、大根とにんじんを切り終えた銀時が私の名前を呼んだ。皮剥きをしていた手を止めて彼の顔を見ると、銀時は私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「ちょ…!いきなりどうしたの?」
「お前、悲しそうな顔してる」
「だって…役に立ちたいって思ってるのに全然ダメなんだもん…」
「ダメなんかじゃねーよ。名前は、名前のできることをやってくれりゃその気持ちはちゃんと俺に届いてる。もちろんヅラにもな。だからさ、あんま無理すんな」

わかったな?と子供をあやすように首を傾げた銀時に対して小さく頷くと、彼は嬉しそうにニカッと笑顔を見せてくれた。
どうして銀時はこんなにも優しいのだろうか。私は何も恩返しできないのに、なんて卑屈な考えを掻き消すように頭を左右に振ると、「ありがとう」と銀時の目をまっすぐ見つめながらお礼を言った。

私にできること
  mokuji  
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