とうとうこの日が来てしまった。
全校生徒が揃ったホールで、おそらく二度と歌うことなどないであろう校歌を合唱していると、自然と涙が頬を伝った。けれど、いざ式が終わって教室に戻ってみると、ちょっぴり引いてしまうくらい号泣する桂くんと近藤くんを、相変わらずクールな高杉くんと気配り上手な山崎くんがなだめていたし、神楽ちゃんと沖田くんは最後の勝負とか言って、かなりバイオレンスなあっちむいてホイをしていたわけで、どんな状況でも変わらない3Zに不思議と安心感を覚えたのだった。

「あれ…。名字ー、お前、まだ帰ってなかったの?」
「銀八先生…」

ほんの数時間前まで賑やかだった3Zも、今は机が綺麗に整列しているだけの、どこにでもあるただの教室になってしまった。
そこに一人で残っていた私に、銀八先生は普段とは違う正装のネクタイを緩めながら近付いて、「こんな服は息苦しくてめんどくせーや」と苦笑いを浮かべると、私が座っていた席の隣に腰掛けた。先生は嫌いみたいだけど、とても似合っていると思うんだけどな。

「みんなは校門の所で写真撮影とかしてますよ。銀八先生は人気者なんだから、あっちに行ってあげなくていいんですか?」
「んー?ほら、俺はさ、思い出は写真じゃなくて心に残す派だから」
「もう…。なんですか、それ?」
「あれ?俺としては、かなりカッコイイこと言ったつもりだったんだけど」
「銀八先生が言うと、なんだか胡散臭く聞こえちゃいます」

私がクスクスと笑いながら言葉を返すと、先生も同じように笑っていた。けれど、すぐに真剣さを帯びた瞳が「こんな所でどうしたんだ?」と、私に質問を投げかけた。

「なんていうか…。最後にこの教室にお礼を言いたくなったんです」
「お礼…?」
「はい。私、3年生になったばかりの頃、このクラスでやっていけるか心配だったんです。ほら、良くも悪くも濃いメンバーばっかりじゃないですか、ここって」
「あー、それは否定できねーわ」
「でも、そんな私もいつの間にか3Zの一員になってて、気付いた時には皆と一緒に過ごす毎日が楽しくて楽しくて仕方なかったんです。私、学校がこんなにも楽しいって気付いたのは初めてでした。だから、『1年間ありがとう』ってこの教室に感謝を伝えたくて」
「へぇ…。お礼を言うのも大切かもしれねーが、もっと大事なことを忘れてんじゃねーの、お前」
「大事なこと…ですか?」

キョトンと疑問符を浮かべる私に、銀八先生は、やれやれと困ったように笑って私を見返した。
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