吐く息は真っ白。宙にふわふわと昇っていくそれを目で追いかけて、やや視線を上げた先には黒いダウンジャケットを着た土方くんがいた。私の視線に気付いた彼はちょっぴり微笑んで首を傾げる。「寒くないか?」と、そう言ってもらえるだけで、息ができなくなるくらいに胸が苦しくなって、冷えた頬はすぐに熱くなってしまった。

「そういえば、土方くんは神様に何をお願いしたの?」
「ん?俺か?俺ァ一応受験生だから学業成就。名前は?」
「私はね、家族みんなが健康でいられますように、あとは…、今年も素敵な一年が過ごせますように、ってお願いしたの」

でも、今日の神様はすごく忙しいから、私達の願いをちゃんと聞いてくれたかな?そう言葉を付け足すと、土方くんは普段なら絶対に見せないような無邪気な笑顔で「お前、やっぱ面白いやつだな」と言った。私としては当たり前の疑問だったから、どうして笑われてしまったのか不思議だったけれど、土方くんがこんなふうにも笑うんだ、という新たな事実を知れたから別に笑われたってかまわないと、そう思った。

「あと三ヶ月だな、卒業まで」

お参りを済ませた後、人混みを抜け出して自宅まで歩いていた時にふいに土方くんが口にした言葉。その言葉は心に暗い影を落としたような気がしたけれど、私はそれを深追いすることもなくただ曖昧に「そうだね」と相槌を打った。それはたぶん、卒業をしなくてはならない事実を認めるのが怖かったからなのかもしれない。

「まぁ、俺は受験が終わってねェから卒業どころじゃねーけどな」
「ねぇ、土方くんは卒業が寂しい?」
「いや、別に」
「え……?」

その一瞬、心臓が止まったような気がした。何故だか涙が込み上げ、ツンと鼻の奥が痛くなる。それを隠すために小さく俯くと、彼の言葉の続きを待った。

「なんつーかさ、大学生の方が色々と自由な気がしねェか?だったら、早く卒業してぇと思う」
「そう…なんだ」
「お前、そんな顔してどうした?俺、なんか変なこと言ったか…?」
「え…?ううん…!あ、私の家はこっちなんだ。今日は誘ってくれてありがとう」

ぎこちない笑顔を作って別れの言葉を告げると、小さく手を振ってから土方くんと違う道を歩き出した。家に帰りたいような帰りたくないようなぐちゃぐちゃな気持ち。一歩一歩足を動かすたび、涙を堪えることが辛くなって鼻を何度も啜った。
ふう、と吐き出した白い息は一瞬で冷たい風に掻き消されてしまった。そんなちっぽけなことすら酷く悲しく見えてしまうなんて、私はどうしてしまったんだろう。そう思ったら、瞳に入りきらなくなった涙が自然と私の頬を伝った。

寒空マイハート
きっと、私はサヨナラを恐れているの
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