「名前ー!お昼ご飯の時間アルーっ!」

昼休み前最後の授業の終わりを告げるチャイムとほぼ同時に、神楽ちゃんが大きなお弁当箱片手に私の席へとやってきた。

「神楽ちゃん、そのお弁当は二つ目?」
「そうアル。勉強してると、すぐにお腹が減ってしまうヨ」
「あら、本当に勉強しているのかしら?」
「アネゴー、それは酷いアルー」

私が鞄からお弁当箱を取り出している途中、クスクスと笑いながらやってきたお妙ちゃんも、お弁当箱とペットボトルを持って私の隣の席に腰掛けた。お妙ちゃんが持っているお弁当は弟の新八くんが毎日作っているらしいのだが、その出来映えにはいつも感心させられる。
新八くんは良い夫になるな、なんて思いつつ、自分のお弁当箱の蓋を開けると、それを見ていた神楽ちゃんが「すごいアル!」と目を輝かせながら言った。

「名前の弁当はいつも美味しそうな物いっぱいネ」
「確かにそうね。しかもそのお弁当、名前ちゃんが自分で作っているんでしょ?」
「うん。お母さん、朝忙しいみたいだから…。あ、でもね、これは昨日の夕食の余りだし、こっちは冷食。自分で作ったのは、この卵焼きとおにぎりくらいだよ?」
「あら、卵焼きをそんなに美味しそうに作れれば十分じゃない。私なんて、新ちゃんに卵焼きすら作らせて貰えないのよ?」

どうしてかしらね、なんて疑問を浮かべるお妙ちゃんに苦笑いを向けつつ、私はお箸を手に取った。さて、まずはどれから食べようか。ジーッとお弁当と睨めっこしていると、横からスッと伸びてきた見知らぬ指が3つしかない卵焼きの一つをつまんで、私のではない口の中に放り込んでしまった。

「名前が料理できるとは驚きでさァ」
「沖田くん…!」
「名前の卵焼き勝手に食べるなんて最低アル。あれは私の卵焼きネ!」
「うるせー、チャイナ。毎日コンビニ弁当の俺が可哀相に思わねーのか?たまには手作りの味が欲しいんでさァ」
「おい、総悟。あんま名前を困らせんな」

沖田くんとは別の方向から聞こえた声に振り返ると、視線の先に立っていたのは土方くんだった。その時、私と沖田くんが彼の名前を呼ぶ声が重なった。

「なんでィ。土方さんも名前の卵焼きを狙いにきたんですかィ」
「なっ…!バカ!そ、そんなんじゃねーよ。俺はお前が名前を困らせてんじゃねーかと心配してだな…」
「土方コノヤローは名前の作った卵焼きなんて食べたくねーってさ」
「そうは言ってねェだろーが、バカ!」
「あの…、」
「あ?」

言い争う土方くんと沖田くんを止めるように声を出すと、二人は言葉の続きを待っているらしく、疑問を顔に浮かべながら私に視線を向けた。
こんな時、私は何と言ったらいいのだろうか。いろいろと考えた結果、私はお弁当を土方くんに見せるように持ち上げた。「もし良かったら、土方くんも食べて…?」そう言って彼を見ると、土方くんは目を見開いて、まるで石みたいに身体を硬直させているようだった。
どうして土方くんがそんなに驚いているのか不思議だったし、沖田くんとお妙ちゃんが、そんな私と土方くんを、さも楽しそうに見つめているのが、もっともっと不思議だった。

「あ…!嫌だったら、無理しなくてもいいの…!」
「嫌じゃ…ねェ…」
「土方さん、いい加減素直になりなせェ」
「うるせェ、総悟!」

相変わらずニヤニヤの笑みを浮かべたままの沖田くんを罰が悪そうに睨みつけた土方くんは、「ありがとな」と言いながら、私の卵焼きを口に入れた。

「あ…。近藤さんが向こうで寂しそうに俺達を待ってまさァ。早く行ってやらねーと。名前、また俺のために卵焼き作ってこいよな」
「すげー美味かったぜ、お前の卵焼き。その…あれだ…。俺もまた食いてェと思った」

それぞれ言葉を残して、近藤くんがションボリ待つ席へと戻って行った二人。
彼等が席に着くのを見届けた後、残り一つとなってしまった卵焼きを自分の口に入れると、その甘さとくすぐったい喜びに笑みを浮かべつつ、次はもっと美味しいやつを作ってやるんだと心に決めた。

お砂糖ひとさじの隠し味
卵焼きがこんなに甘く感じるのは、きっと貴方のせい
  mokuji  
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