「あっ!この写真の神楽ちゃん可愛いー!」
「どれアルかー?」
「これ。おにぎりを食べてる笑顔が最高っ!」
「はっ。飯食ってる写真が良いとは、お前らしいじゃねーか、チャイナ」
「うっさいアル、ドS男」

私の机の上には一冊のちょっと大きめで分厚い本があった。高校生活の小さな思い出のカケラが集められた卒業アルバムを、お妙ちゃんと神楽ちゃん、それに沖田くん、土方くんと囲んで眺めていると、既にセピア色になりつつあった思い出が、もう一度鮮やかに色を塗られて頭の中で再生された。

「お、これなんて名前と土方さんがイイ感じじゃねーか」

沖田くんがニヤニヤしながら指差したのは、たくさんある写真の中の一つ、私と土方くんがグラウンドでハイタッチをしている瞬間を収めたものだった。写真の中では頬を赤くした私が、はにかんだ笑顔で土方くんを見上げている。
あぁ、そうだ、懐かしい。土方くんの大きな手の平と優しい笑顔。それがすごく好きだと思ったんだっけ。一瞬で蘇ったその時の感情が、もう一度私の心臓を大きく跳ね上がらせた。

「おい、これ、ドッジボール大会の時の写真だろ?一体、誰が撮ったんだ?」
「俺でさァ。土方さんが名前と写ってる写真を欲しがると思ってねィ」
「なっ…!俺ァ、ンなこと頼んでねェだろーが」
「おいテメェ、名前ちゃんとのツーショットをいらないって言ってんのか…、コラ?」
「ちょ…、お妙ちゃん…!」

今にも殴り掛かりそうなほど禍々しいオーラを浮かべたお妙ちゃんを、まぁまぁと宥めつつ、私はアルバムのページを一枚めくった。
入学式、体育祭、文化祭に修学旅行。アルバムの中にはたくさんの写真があったけれど、私と土方くんが一緒に写っているのは、さっきのドッジボール大会の写真だけ。
それもそうか。私は心の中で小さくため息をつくと、隣に立つ土方くんの横顔をこっそりと見上げた。だって、私と土方くんがこうやって関わるようになったのは、本当に最近なんだもんね。もっとたくさん思い出を作りたかったなぁ。そんな後悔が心の中に鈍くて重い痛みを落としたような気がした。

「名前…、どうした?」

もしかしたら、気が付かない内に浮かない顔をしてしまっていたのかもしれない。心配そうに眉を顰めた土方くんが私の顔を覗き込んだ。
何でもないの。そう首を振って否定するものの、今度はお妙ちゃんや神楽ちゃんまで、「大丈夫?」と不安げにこちらを見ていたから、私は心配させてしまった申し訳なさから、上手く言い訳ができなくなってしまった。

「やっぱり、卒業は寂しいなーって思ったの。明日が終わったら、みんなバラバラになっちゃうんだよ?もっと思い出を作りたかったし、もーっと、みんなとお喋りしたかった…」

今さら後悔したってどうしようもないのにね。そう言葉を付け足すと、目を伏せて肩を竦めた。すると、突然、そんな私の両頬を神楽ちゃんは私と比べたらちょっと小さな両手でギューッと挟んだ。

「名前は頭イイけど、ばかアル。私とアネゴと名前は違う大学に行ったって一緒アル。思い出なんてこれからいくらでも作ればいいネ!名前が望むなら、このドS男とマヨラーも、思い出作りの仲間にいれてやったっていいアル!」
「そうよ、名前ちゃん。高校を卒業するくらいでバラバラになっちゃうだなんてひどいわ。そんなもんで断ち切れる程、私達の繋がりは弱くないんだから」
「神楽ちゃん…、お妙ちゃん……ッ!」
「あーあー、女はすぐ泣くから面倒なんでさァ。でも、俺だってその思い出作りとやらに参加してやらねぇこともねーぜ?」
「俺も賛成だ。アルバムには載らねーが、今、この瞬間も、思い出、増えたんじゃねーの?」
「うん、そうかもしれない…!」

私は顔を上げて、ありがとうと涙混じりの笑顔で言った。
すごく、すごく、胸が苦しい。こんなにも温かい人達に囲まれて、私はなんて幸せ者なんだろう。この感謝の気持ちは、たった一言のありがとうなんかじゃ伝えられないってわかってる。だから、これから長い時間をかけて少しずつでも伝えられたらいいと、そう思った。

「んじゃー、今夜は土方さんの家で朝までお喋り大会でさァ。暗くなっちまったし、とっと帰ろーぜ」
「おい、総悟…!勝手に決めんじゃねェ、馬鹿」
「賛成アルー!」
「あら、楽しそうじゃない?どうせだったら、九ちゃんや猿飛さんも呼びましょうよ。ついでに新ちゃんも」
「だったら、山崎と近藤さんもでさァ。高杉は来ますかねィ?」

和気あいあいと会話を続ける3人は、各々の鞄を持って教室を出ていってしまう。残された私と土方くんは目を合わせると、お互い困ったような笑顔を浮かべた。

「ったく、総悟のヤツ…。あー、その…。名前も来るか?」
「土方くんが迷惑じゃなかったら…」
「迷惑なんかじゃねーよ。それに、お前がいないとつまらねェ」
「え…?あ…、ありがとう!それだったら参加させてもらおうかな」
「あぁ、約束だ。んじゃ、早く俺達も行こうぜ。下駄箱で総悟たちが待ってるだろうし」
「うん……!」

大きく頷くと、私はアルバムが入ってちょっぴり重くなった鞄を片手に持って、土方くんと一緒に夕日に照らされた教室を後にした。

夕焼け色の思い出
形には残らないけど、心の中に大切にしまっておくの
  mokuji  
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -