溜まっていた洗濯物に部屋の掃除、2〜3日分の食材の買い出しと、夕飯作りをしたら、休日なんてあっという間に終わってしまうのだ。
別に仕事は嫌いじゃないけれど、また明日から仕事だと考える度、無性に寂しいような、もしくは、もっと充実した休日が過ごせたのではないかという後悔にも似た感情が、雨の日特有の黒い雲みたいに私の心を占領していた。

「にゃう」
「ねぇ、今日もお泊りしていく?」

ベッドに腰掛けていた私の膝上に一声鳴いてからうずくまった白猫さんに質問すると、白猫さんは満足げに瞳を閉じてこちらに擦り寄った。どうやら今晩もここで過ごしていくようだ。一緒に寝ようか?と囁きながら、白くて、柔らかくて、フワフワな毛並みの小さな背中を撫でていると、銀さんに膝枕をしてあげた日のことをふと思い出した。たしか「この肉の付き具合がちょうどいいんだよな」なんて失礼極まりないことを言われたっけ。溜息混じりに、ここに居ないその人の名前を小さく呟くと、白猫さんはピクリと身体を揺らし無言で私を見上げた。

「銀さんっていうのはね、私のすっごく大切な人なんだ…」

ろくに仕事もしない年中金欠の甲斐性無しのくせにパチンコが大好きで、酒癖も悪い。それに糖尿病の一歩手前だっていうのに甘いものを控えることもしないし、危ないことに首を突っ込んでは、いつも大きな怪我を負って帰ってくる、まさに駄目な男。だけど、誰よりも他人の心の痛みに聡くて、それを黙って放っておくことができなくて、他人の為に自分の命すら賭するような、馬鹿で、優しくて、強くて、温かい人。私がこの世界で一番愛している人。それが坂田銀時なの。
途絶えることのない彼への想いが言葉となって溢れてきて、延々と白猫さん相手に語ってしまっていた。猫に人間の言葉がわかるはずがないのに、と気が付いた瞬間、私の心に残ったのは、何故銀さんがここに居ないのかという純粋な疑問だった。

「独りに…しないでよ……」

嗚咽で身体を震わせながら、絞りだすように声を出すと、私は白猫さんを顔の高さまで持ち上げて抱きしめた。
私が独りで泣いていると、いつの間にか隣に銀さんが居て、独りで泣くんじゃねーよって背中を摩ってくれた。今だって私は泣いているのに、どうして銀さんは隣に居ないのだろう。私の涙を止めてくれる唯一の人は何処か遠くへいってしまったのだろうか。ぐちゃぐちゃの心の中で、そんなことを考えていたら、泣かないでくれと懇願するように、私と同じくらい瞳に悲しみを湛えた白猫さんがペロリと私の頬を伝った涙を拭い取ってくれた。

「ごめん…、心配かけちゃったよね……」

まだ涙は止まらなかったけれど、精一杯笑顔を作りながら白猫さんの頭を撫でた。慰めてくれて、一緒に居てくれて、ありがとう。たくさんの意味を込めた感謝の言葉を伝えると、私はピンク色をした白猫さんの鼻に軽く口づけをした。

「あの人、すぐにいじけちゃうから、チューしたことは私達だけの秘密だよ?」

そう白猫さんに囁くと、驚いたように瞳を大きく開いた白猫さんをベッドの上にそっと降ろして、私は毛布にうずくまった。たぶん疲れていたのだろう。太陽の香りがする毛布に包まれた瞬間、不可抗力の睡魔が私に襲い掛かったのだ。遠くなる意識の中で、ニャアと白猫さんが返事をしてくれたような気がした。
  mokuji  
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