「もしもし。あ、新八くん。うん…うん……そっか…まだ帰ってこないんだ…。ほんと、困った男なんだから……。また何かわかったら連絡よろしくね。私も連絡するから。それじゃ…」

私は、ふぅと溜息を一つ零すと、「万事屋」と着信相手の名前が映し出されたディスプレイを電源ボタンを押して閉じた。そして、折り畳み式の携帯をポケットに滑り込ませる。
見回り中における私用の電話は上司である土方さんに叱られてしまうのだが、ばれなければ大丈夫。それに白昼の江戸はいたって平和で、真選組の出る幕なんてどこにもないのだ。だから電話の一つくらいしたっていいじゃない。なんて土方さんを怒らせることこの上ない持論を心の中で展開していると、ぽつりと鼻の頭に冷たい雫が落ちてきた。もしかして、と空を見上げると、また一つ冷たい雫が頬に落ちる。それはやがて乾いた地面に次々と丸い斑点を描いていくようになり、雨を回避する術を何も持ち合わせていない私は、仕方なくシャッターの閉じられたお店の軒先で雨宿りをすることに決めた。

「結構降ってきたなー…」

どんよりと低い雲は空一面を覆っていて、すぐに止みそうな気配はない。誰かに迎えに来てもらおう。そう思った私は携帯の電話帳上部にあった「沖田さん」の携帯へ発信ボタンを押しそうになったのだが、すぐさまその指を止めた。だって、沖田さんだもの。彼を呼び出そうものなら後で何をされるか想像に難くない。沖田さんからの悪戯をあれこれ考えただけで額に浮かんだ冷や汗に苦笑いをしながら電話帳の下部にあるはずの「山崎さん」を探していると、いつの間にか足元に真っ白でモコモコした何かがあることに気が付いた。

「猫……?」

私が小さく呟くと、その声に反応してくれたのか、白猫さんは尻尾をピンと立ててこちらを見上げた。
猫って、もっと目がクリクリしていたような気がする。なのに、今目が合った白猫さんは、やる気が無いというか、ダラけているというか、とにかく生気の無い目をしているのだ。まるで銀さんみたい。そう思ったら、その白猫さんにとてつもない親近感が沸き起こったので、私はその場にしゃがみ込んで白猫さんの頭を撫でながら「雨は困るよねー」なんて話し掛けていた。

「にゃう」
「ん…?あ、雨止んだんだ……」

白猫さんと一方通行の会話をしてどれくらいの時間が経ったのだろうか。怒りっぽい上司やドSな隊長、行方不明の彼氏の話を随分と聞かせてしまったようだ。
気付いた時には、途切れた雲の隙間から太陽が顔を覗かせていて、雨粒を着飾った植物がキラキラと輝いていた。

「それじゃあね、白猫さん」

もう一度、ふわふわでクルクルの毛並みをした頭を撫でてから立ち上がった。何か物言いたげにこちらを見上げた白猫さんに、ごめんね、と呟くと、土方さんに怒られたくない私は、真面目にお仕事を再開することにした。
  mokuji  
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