モノクロ世界 | ナノ

目を閉じた私は、じっと息を詰めて背後に在る刃が心臓を貫くのを待った。
チャキリと刀を構えたであろう金属音。土足で畳を蹴った音。永遠に感じてしまうほど長い数秒で、私はもう一粒の涙をこの世に落とした。

「てめぇの命、俺が貰い受けてやらァ」

私の横を鋭く風が通り抜けた。ふと、その風の中に見つけた紫煙の香り。間違えるはずのないその香りに、思わず再び目を開き背後を振り返ってしまった。畳の上に広がる鮮血の池。本来ならそこに横たわっているべきは私のはずなのに。

「どう…して…?」

刀を握り締めながら俯せに横たわる浪士達は、もう二度と動くことはないのだろう。私は小刻みに震えるように息を吐き出すと、赤い池の中に唯一立っていた高杉さんに視線を向けた。「この人達は貴方の仲間でしょう?」と、言葉を付け足すと、刀を鞘に収めた高杉さんは薄く笑いながら「知らねェ」とだけ呟いた。彼の仲間でないのなら、一連のテロも高杉さんが犯人ではなかったということなのだろうか。

「ごめんなさい…」
「あァ?」
「私、貴方を犯人だと疑っていたの…」
「俺ァ、一度たりとも、てめぇに法螺吹いたことなんかねェよ」

赤い草履の跡を畳に作りながら私に近付いた高杉さんは、あの時のように強引に私の手を掴むと、私を屋外へ連れ出した。戸惑いながら後ろを振り向くと、黒い煙がゆっくりと障子の隙間から侵入してきていたことに気付き、彼の背中を追う足を早めた。

「初めて会った時、俺ァ、世界を壊してる途中だとお前に言っただろ?」
「はい……」
「手始めに、俺がてめぇのくだらねェ世界を壊してやらァ」

背後から覗いた高杉さんの口元には妖しげな笑みが、うっすらと浮かんでいた。「お前は俺と共に来い」と言った高杉さんは横暴な人。だから、私の承諾の返事があるか無いかなんて、彼にとっては何の意味も成さないのだろう。そう思っていると、高杉さんは私をひょいと抱き上げたまま塀を飛び越えて、屋敷が崩壊する音と同時に私を外の世界へと連れ去ってしまった。

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