モノクロ世界 | ナノ

「俺は真選組副局長、沖田総悟でさァ。んで、こっちは雑用の…」
「嘘つくんじゃねェっ、バカ!!」

用意を済ませ門前に出ると、そこには黒い洋装に身を包んだ男性が2人居た。薄茶の髪をした人を容赦なく殴った黒髪の人は「俺が副長の土方十四郎だ」と咳ばらいをしながら名乗った。「土方さんはすぐに手ぇ出すからいけねーや」と髪の毛を掻いた沖田さんは副長ではなく、本当は一番隊の隊長さんらしい。予想と噂とは違って、真選組はただ怖い人の集まりではないのかもしれない。そう思ってクスクスと笑っていると、「行くか」と土方さんに促されてパトカーの後部座席に座った。
車中では特に会話もなく、たまに無線の音が飛び込んでくるだけ。暇を持て余して珍しいパトカー内を見回していたら、前部座席の後ろに手配書リストらしきものが挟まっているのを見つけた。それを手にとってパラパラとめくっていると、そこには、無精髭を生やした人、いかつい体つきの人など、たくさんの攘夷志士が掲載されていた。

「ん……?」

思わず声を上げて手を止めてしまったのは、桂という長髪の男の手配書だった。この男の人の隣に載っている変な白い生き物は何だろうか。私の声に気付いた助手席の沖田さんがこちらを覗き込むと、「あー、そいつ…。なまえさん、知ってるんですかィ?」と言いながら手配書の写真を指差した。

「そいつは桂小太郎。江戸に潜伏していろいろと騒ぎを起こす面倒臭ェヤローでさァ。そういえば最近…、」
「総悟。一般人相手にペラペラ情報流してんじゃねーよ」

不機嫌そうな土方さんの声が沖田さんの言葉を遮って、沖田さんは渋々前へ向き直った。「とりあえず、店がたくさんある場所でいいだろ?」とハンドルを握る土方さんがミラー越しに私に問い掛けるものの、私はただ頷くことしかできなかった。実際、ここに行きたいと言えるような場所なんて知らなかったのだ。
車に揺られて数十分、座席のドアを土方さんに開けられて降車すると、そこはとても大きなビルで、あまりの人の多さに思わず目を見開いてしまった。

「あとは、なまえさんに任せまさァ。俺達ァ、後からついていくんで」
「あの…!」
「……?」
「私、こんなに人がいる所に来たことがなくて…。だから、沖田さんのオススメを教えて欲しいです…!」
「んじゃ、まずはあそこのアイス屋。土方さんが奢ってくれるんで、行きやしょう!」
「えっ…、きゃあ…!」

ぐいぐいと腕を引かれて連れていかれたアイスクリーム店には可愛らしい装飾が施され、これまた可愛い制服を着た店員さんがいた。私の想像を絶する世界に思わず頭がポーッとなってしまう。そこには様々な色、味をしたアイスクリームがあって目移りしていたが、沖田さんがオススメだと言うイチゴとバニラのミックスアイスクリームを頼むことにした。

「あの…、どうしてお二人は召し上がらないのですか…?」
「俺は食べたいんでさァ。なのに土方コノヤローが…」
「俺達ァ職務中だ。ンなモン食べる訳にはいかねーんだ」
「はぁ…。そうですか…」

チッと舌打ちした沖田さんの頭を叩きながら土方さんは言った。アイスクリームを食べる様子をただ見られているのは良い気分なわけがない。沖田さんは「視姦プレイも悪くねーな」と、座りながらアイスクリームを口にする私を真顔で見下ろしながら言っていたが、視姦とは一体何だろうか。それを土方さんに尋ねると、また彼は沖田さんの頭を叩いてしまった。
もちろんアイスクリームはすごく美味しいし、見慣れないお店をただ見ることも楽しい。それに、土方さんと沖田さんのやり取りを見ているのも楽しい。けれど、真選組の人と一緒にいることは、周りから見たらかなり奇妙なことらしく、チラチラと私たちを見る人々の視線が気になってしまう。これでは、せっかく外に出たのに十分に楽しめない。さて、どうしたものか。アイスクリームを食べながらひたすら考えていた私は、2人をあるお店に連れていくことにした。

「あの、私…、このお店を覗きたいのですが…」
「ここ、だと……、」
「はい!ランジェリーショップです」

ニコリと笑って首を傾げながら私は2人を見た。「中までついてきていただけますか?」と尋ねると、沖田さんはともかく、土方さんは口をあんぐりと開けてサァーっと顔が青ざめてしまった。

「いや…、ここはさすがに…、な、なぁ?総悟…?」
「別に俺ァ構いま…、」
「俺達ァここで待ってるんで、お一人でどうぞ〜」

アハハと笑った土方さんは沖田さんの言葉を遮ると、彼の首根っこを引きずりながら少し離れたベンチへと行ってしまった。それを見届けた私は、思惑通りに事が運んだことに小さくガッツポーズをしながら、カラフルな下着が並ぶお店の奥へ進んでいった。そして、土方さんたちが居る場所とは反対側の出入口から人混みの中へと紛れ込むことに成功したのだ。ごめんなさい。心の中で2人に謝ってみるが、それ以上に身体が軽くなったと感じてしまうほど、ウキウキしてしまうのだ。初体験の人混みに揉まれながら、私は一先ずショッピングモールの出口を目指した。

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