モノクロ世界 | ナノ

「真っ赤…」

どこからか火消しの車のサイレンが聞こえた。それにつられるように背後を振り返ると、一軒の屋敷が暗闇を照らし出すように煌々と燃えていた。

「将軍家との縁談のこと…、初めて会った時から高杉さんは知っていたの?」

サイレンの音に被せるように質問を投げつけると、高杉さんは「あぁ」と短く答えた。どうやら攘夷志士の間ではその噂はとっくの昔に広まっていたらしい。
知っていたのなら何故、彼は屋敷へ訪れても私を殺さず、最終的に護ってくれたのだろうか。そんな当たり前の疑問が頭の中に浮かぶと、私は無意識にその言葉を口にしていた。

「てめぇは相変わらず質問が好きな女だ」
「気になるんだから仕方ないじゃない…」
「俺がお前を気に入った、これじゃいけねェか?」
「気に入った…?」

私は思わず首を傾げてしまった。「初めは俺が殺してやるつもりだったんだがな」と言葉を付け足した高杉さんはクツクツと楽しげに笑ったのだが、やはり、その言葉の真意が私にはよくわからないのだ。眉間に皺を寄せて考え込んでいると、「あの屋敷に未練でもあンのか?」と、前を歩いていた高杉さんがハタリと足を止め、こちらに振り返った。どんな感情も浮かべない隻眼には、彼を見上げる私だけが映っている。未練はあるのかと尋ねられた私はすぐに返事ができなかった。嫌っていたけれど、やはり叔父の安否が気になる。それだけじゃない。私のために着物を用意してくれたあの女中は生きているだろうか。高杉さんから目を逸らして俯くと、そんなことが次々と思い浮かんでくるのだ。

「もしかしたら…、未練があるのかもしれません…」
「……」
「けど…」

一度は捨てた命を拾い上げてくれたのは誰だろうか。私は拳をキュッと握り締めると、涙が瞳一杯に溢れてしまいそうになるのを必死に堪えながら、笑顔を作って高杉さんを見つめた。胸に手を当てると、とくり、とくり、と時を刻む心臓がある。もう、この命は私だけのものではないのだ。

「私は高杉さんについて行きます。私の世界を壊したのですから、ちゃんと責任をとっていただかないと」

クスリと笑って私が「約束ですよ」と言葉を付け足すと、高杉さんは僅かに目を細めて喉でクツクツと笑った。彼は何も言葉にしなかったけれど、期待してろ、と唇が動いたように見えたのは私の気のせいだろうか。

「行くぞ、なまえ」
「はい、高杉さん」

ゆっくりと絡められた私の指と彼の指。
もう振り返らないと決めた背後には、燃えながら消えていく私の小さな世界がある。私は、それが照らす闇夜の中へ高杉さんに手を引かれながら最初の一歩を踏み出した。

創造された世界
新しい世界を貴方と共に生きていく
Fin.

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