「それじゃあ、行ってくるね」
「あァ」

私は舳先から月を眺めていた晋助に一声かけてから船を降りると、闇夜に慣れた瞳をキョロキョロと動かし、左腰の刀の存在を確かめながら、入り組んだ路上を進んで行った。
晋助には、幕吏の会合が行われている料亭に行けと言われた。ただ行けばいいってもんじゃなくて、その言葉には「殺せ」の意味も含まれているのはわかっている。私は自然と零れた溜息に苦笑いをすると、久しぶりに降り立った江戸の夜空を見上げた。
攘夷戦争が私にとって納得のいかない形で終結した時、行き場を失った私に「一緒に来るか?」と声をかけてくれたのは晋助だった。その時、晋助は「銀時のことはもう忘れろ」とも言った。実際、その言葉こそが、私の人生の選択に大きな影響を及ぼしたのだ。
ずっと、ずっと、大好きだった人。この戦争が終わったら2人で静かに暮らそうと言ってくれた人。しかし、今現在私の隣にその人は居なかった。

「いい加減…、忘れなきゃ駄目だよね」

ポツリと夜空に向かって話しかけた。何処にいるのかも、生きているのかもわからない人を待つのは私の勝手だが、そのせいで鬼兵隊に…、晋助に迷惑をかけることだけはしたくない。
今は仕事に集中しなければ。雑念を振り払うように一回深呼吸をすると、私は闇に紛れるため、人気のない路地裏へと足を進めた。


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