素直になれない君とオレ

「お前と名字ってすげー仲いいよなー」
「そーっスか? 毎日喧嘩しかしてない気がするんスけど……。そういう青峰っちこそ――」
「おはよー、青峰くん! 今日も朝練お疲れ様。そして相変わらず黒いねー」

 朝練を終えて教室に戻る道中、青峰っちはオレと名前について仲がいいと評した。
 どこをどう見たらそんな評価ができるのだろう。首をひねって悩んでいると、職員室から出てきたらしい名前がオレと青峰っちの背中を背後からバンと叩いた。

「おー、名字か。はよ。朝から元気だなー。けど黒いは余計だ、ばーか」
「ふふ、気にしない気にしない」

 青峰っちがわしゃわしゃと犬でも可愛がるみたいに名前の頭を撫でる。それに対して目を細めて微笑む姿に、心臓をぎゅっと掴まれたような心地になった。

「あ、そういえばね、さっき数学の先生が青峰くんのこと探してたよ? 課題がなんとかって」
「げ! わりい、オレ、授業ふけるわ。またな!」
「ばいばーい!」
「まーた、可愛い子ぶっちゃって」

 手をぶんぶんと振る名前に嫌味たっぷりに声をかける。すると、青峰っちに見せていた笑顔がふっと消えて、むっとした表情でオレを見上げた。

「あらあら、毎日毎日たくさんの女の子に鳥肌たっちゃうような嘘くっさい笑顔を振りまいてるのはどこのどなたでしょーね?」
「はぁ? オレのは仕事みたいなもんだし。オレの仕事を見てくれる子たちの夢を壊すわけにはいかねーっしょ」
「あー、はいはい。たいしたプロ根性ですこと」
「うわ、棒読み…。ホント可愛くーね」
「そんなこと言われなくても知ってますー。ていうか、モデルに言われると余計腹立つ!」

 オレだって青峰っちみたいに名前の頭を撫でてみたい。そして、十分可愛いと伝えたい。
 それなのに、嫌がられたらどうしようって、今の心地良いオレたちの距離感が枷となって、素直に手を伸ばすことができなかった。

「お二人とも、朝からうるさいです」
「く、黒子っち……?!」
「黒子くんいつからそこに……!」
「名字さんのバイバイ、のあたりですかね」

 オレの隣にいつの間にか並んでいた黒子っちに、オレも名前も思わず声をあげて驚いてしまう。
 時代が時代なら、黒子っちは最強の忍として名を馳せた気がする……なんて思うのはオレだけかな?

「うるさいのは名前っスよ? 文句ならそっちに言って欲しいっス!」
「はあ? 涼太のせいでしょ? 涼太がいちいち文句言うんだもん! 私は悪くない!」
「いい加減にしやがれ、です」
「「スミマセン……」」
「さすが、学内ナンバーワンの喧嘩ップルですね。ちなみに、ナンバーツーは青峰くんと桃井さんです」
「ちょ……。なんスか、それ?」
「君たちは付き合ってはいないようですが、周りからはそう見られているみたいですよ?」
「私が涼太と……? もう、黒子くんってば冗談ばっかり」
「いえ、僕は冗談は……」
「あ! 私今日日直だから早く行かないと! じゃあーねー!」

 名前はひらひらと手を振って自分の教室へと走って行った。
 その後ろ姿を見送るオレと黒子っちは名前の慌ただしさに圧倒されたのか、その場に無言で立ち止まっていた。

「名字さんは相変わらず元気というか…」
「そーっスね……」
「そして黄瀬くんも相変わらず名字さんとの距離を縮められないままですか」
「そーっすね……って、な、何のこと言ってるんスか?!」
「黄瀬くんの好きな人が名字さんだってこと、気付いていないとでも? 丸わかりですよ。隠し通せていると思っていたのなら、君は相当おバカさんですね」
「う……」
「まあ、良いことか悪いことかは別として、名字さんは気付いていないようですが」
「うう……」

 淡々と真実を述べて、オレのハートにナイフを刺していく黒子っちは心なしか笑っているような気がする。たぶん、黒子っちはドSだ……。
 黒子っちの恐ろしさを再認識していると、朝のホームルームの開始を告げるチャイムが鳴った。廊下に出てお喋りをしている生徒はみんな早足で各々の教室へ戻っていく、

「あ、オレもそろそろ戻らないと……」
「黄瀬くん」
「え……?」

 教室に戻ろうとしたオレを黒子っちが呼び止めた。
 振り返ると、人の心を見透かしてしまうような水色の瞳が真っ直ぐオレに向けられている。ほんの少しの間が怖いくらい長く感じられた。

「以前名字さんとお話をした時、黄瀬くんの話になったんです」
「オレの?」
「はい。それで、僕が黄瀬くんのファンに対する笑顔は胡散臭いって言ったら、名前さん何と言ったと思います?」
「黒子っちはそんなこと思ってたんスか……」
「名字さんは黄瀬くんが心配だそうです。学校くらい普通に過ごせた方が幸せなんじゃないかって、そう言っていました」
「………………」
「さて、僕も教室に戻らないといけませんね。それではまた放課後に」

 丁寧なお辞儀をした黒子っちは、慌てる素振りも見せずに教室へと戻って行く。一方、オレはその場から動くことができなかった。
 なんだよ、それ。初めて聞いたんだけど。心配してくれんなら、素直にオレに言ってくれればいいのに。
 黒子っちの姿はもう見えない。黒子っちは無駄なことを言わない人だ。だから、ああ言ってくれたのにも何か訳があるわけで。

「いや、まず素直になるべきはオレっスかね……」

 素直になって、そんで名字にありがとうって伝えたい。
 まだ1限目すら終わっていないのに、名字と過ごす昼休みが楽しみで仕方なかった。

素直になれない君とオレ




ゆいさんから「黄瀬と喧嘩友達設定」のリクエストをいただきました!
あまり喧嘩していない…気もしなくはないのですが、喧嘩ップルと言われるくらいなので毎日ギャーギャー言い合ってるんだと思います。
黄瀬は相手のことが好きだけど、向こうが黄瀬のことを好きかどうかは、ご想像にお任せします。

ゆいさん、素敵なリクエストをありがとうございました!
これからも、よろしくお願いします(*´ω`)

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