恋するキミは悲しいくらい綺麗でした

「告白……スか?」

 その問いに頬を紅潮させながら頷いた彼女を、オレは黙って見つめた。

「うん……。やっぱね、私の気持ちをはっきりと言葉にしないと青峰くんにはわかってもらえないと思うの。黄瀬くんはどう思う?」
「あー、たしかにそうかもしれない……っスね……」

 恋愛相談という名の2人きりの時間が永遠に続きますようにってオレは毎日神様に願っていた。けど、その一方で悪魔の言葉にも耳を貸していて、青峰っちが恋愛に全く興味がないことを知っていながらウソのアドバイスばかりしていたんだ。
 そのことが神様にばれちゃったのかな。これからオレは死ぬよりもつらい罰を受けなきゃならないんだって、ふと悟った。

「それでね。その言葉を考えてたんだけどなかなかいいのが見つからなくて。『青峰くんのことが好きです』が今の第一候補なんだけど……」

 痛い。痛い。痛い。
 目の前にいるはずの彼女の声がとても遠くに感じる。
 それ以上何も聞きたくないと身体がいくら拒絶をしても、青峰っちを想う言葉はオレの耳から侵入してぐさりぐさりと心臓を突き刺した。

「やっぱりダメ?」
「そんなことないッスよ。青峰っちもきっと……うん」
「あ、なんか微妙な顔してる。んー、やっぱダメかぁ……。ねぇ、ちなみに黄瀬くんだったら好きな女の子にどんな告白をする?」
「オレ……」

 彼女の顔に浮かんでいるのは純粋な興味だった。
 きっと、オレのことを最高の相談相手だって認めてくれているんだと思う。だったらそうだ。これでオレの罪が赦されるわけじゃないけど、最後の一回くらいちゃんと相談に乗ってあげよう。

「オレ、名前っちのことが好きっスよ」
「え?」
「いいから最後まで聞いて」

 名前っちの笑顔を見るといつも心が温かくなって、でもそれと同じくらい苦しくなるんス。なんでだろって考えてみたら、オレが一番好きな笑顔はオレのための笑顔じゃないからって単純な理由だった。いつかきっとオレにも笑いかけてくれるかなってずっと期待してたけど、それは無理みたい。ねえ、明日からはきっと名前っちの幸せを心から祈れるようになるから、最後だけ我儘を言わせて。

「青峰っちのところになんて行かないで。ずっとオレのことを見て欲しい。大好き、大好きっスよ、名前っち」
「き、せ……?」
「なーんてね。どう? これがオレの告白っス!」
「だ、だよね……。もう、あまりにも真剣だからびっくりしちゃった」
「そんなに驚いた? なら俳優を目指してみるのもいいかもしれないっスねー、オレ」
「黄瀬くんならきっとなれるんじゃない? 日本中の女の子が惚れちゃうようなイケメン俳優」
「そっか。ありがと、名前っち」

 喉がきゅっと絞まる悲しさで作り出したこの笑顔が通用するなら本気で俳優を目指すのもいいかもしれないなと、オレは目を細めた。

「大丈夫だよ」
「ん? なにが?」
「青峰っちはね、ちゃんと名前っちのことが好きだよ」
「だといいけど……」
「オレ、2人のノロケ話期待してるっスから」
「うん。今まで本当にありがとう。黄瀬くんがいなかったら告白なんて絶対にできなかっただろうな」

 ありがとう。そう噛み締めるように言った彼女は小さく微笑んでから部室を出ていった。きっと、大好きな人の所に行くのだろう。
 好きな人の幸せを作れたならそれだけで十分だ。そう思えるようになりたくて、なれなくて。誰にも見られないようにひっそりと涙を零した。

恋するキミは悲しいくらい綺麗でした

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