食後の歯磨きは、歯茎からちょっぴり血が滲むくらい完璧に済ませた。
まずは、土方さんの部屋の前で深呼吸を2回する。副長室への訪問なんて、もう二度とないのかもしれないのだ。だからこそ、ここでヘマをするわけにはいかない。許された短い時間で土方さんの私室を五感で感じ取り、そして永久に忘れないように記憶しなくてはいけない。
心を落ち着かせるための深呼吸の後、私は、部屋の襖に手をかけた。
「失礼します。土方さんはいらっしゃいますか?」
数秒待っても返事はない。どうしたのだろうと不思議に思いつつ、もう一度部屋に向かって声をかけたが、それでも応答はなかった。
「土方さーん……?もしかして、いらっしゃらないのですかー……?」
何故か小声になりながら、ソロソロと襖を動かしていく。だんだんと見えてくる土方さんの私室。30センチほど襖をずらしたところで、私はようやく、土方さんのお部屋の全貌を目にすることができた。
全体的に質素な印象。これといって特徴的なものは置かれていない。ぐるりと部屋を見回して、最初に目に入ったのは、壁にかけられた隊服のジャケットと、洗い立てらしく、シワが一つもない真っ直ぐなワイシャツ。
あぁ……、土方さんはいつもあれを着ているんだよね。あのワイシャツ、私が着たらまさに萌え丈ってやつになるのかなぁ。んー、ちょっとデカすぎるかも……? いや、でも、彼シャツがかなりブカブカっていうのも、それはそれで萌えポイントになりそう……、うん。
「はっ……、私としたことが……!」
あまりの感動に息をすることをすっかり忘れていた。ゴクリ、と生唾を飲み込むと、私は鼻からスゥー、と音がするくらいに部屋の空気を吸い込んだ。
私の予想は煙草の香り。元々、煙草なんて大嫌いだけど、それが土方さんのなら話は別。土方さんにだったら、煙草の煙りを直接顔にかけられたって、ご馳走様ですと言える自信がある。
「んっと……、あ、あれ……?」
何て言うか……、その……、汗くさ……、いやいやいやっ! 実にワイルドというか……、うん! 涼やかな見た目とは正反対の男らしさを際立てる香りですっ……!
「なんだ……? もう来てたのか。待たせて悪いな、煙草吸ってた」
「ひ、ひ、土方さんっ……!」
いつの間にか私の背後に立っていらした土方さんは、申し訳なさそうに、2本指を唇に当てて煙草を吸う仕種をした。あぁ、そんなお茶目な姿も素敵です。
そして、土方さんは、少ししか開けていなかった襖を全開にすると、私の横を通って部屋の中に入った。
「ん……?」
「どうしましたか?」
「なんか臭くねーか、この部屋?」
「え……」
「ったく……。近藤さんの仕業だな、こりゃ」
「あの……、一体どういう意味……」
「近藤さんの部屋は今、仕事に使う書類が運び込まれちまって使えねーんだと。だから、俺の部屋で茶ァ飲むくらいならしたって構わねぇって言ってやったんだが、どうせ近藤さんのことだ、素振りやら筋トレでもしたんだろ」
「あ……、あ……」
「おい、そっちの襖も開けてくれ。これは換気しねーと仕事が始めらんねぇぞ……、って、名前顔色悪いぞ?何かあったか?」
「い、い……」
「あ?」
「イヤァァァァァァァァァァ゛!!」
「お、おい!名前、どこに行くんだ?!」
「鼻がッ、鼻がぁぁぁぁ!!」
変態少女Aの末路
Fin.
5ヶ月ぶりくらいに書いた小説がこれってどういうことだ!
近藤さん、ごめんね!てへぺろ
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