恋を見つけた日

「銀ちゃーん…ッ!!」
「あぁ?」
「あのね、私…、」
「どうせ失恋したとか言うんだろ?」
「あれ…?なんでわかったの?」

施錠という言葉を知らないらしい万事屋の扉を勢いよく開いて居間へ駆け入ると、私はソファーでジャンプを読んでいた銀ちゃんの隣に腰掛けた。私にとっては一大事だというのに、銀ちゃんはこちらに視線を寄越すことなく、平然と呟いた。

「いや、名前がそうやって俺の名前を呼ぶ時は、大抵惚れた男に冷めたって話をするからな」
「………」

銀ちゃんは気怠そうにジャンプを机に投げやると、「やっぱ図星か?」と、天井を眺めながら言った。そう言われてしまうと、私も反論できなくなってしまう。思い返してみれば、確かに私の恋愛相談…、というよりも、恋愛ストレスの発散はいつも銀ちゃんだったような気がする。

「しっかし、お前も懲りねェな」
「え…?」
「男にすぐに惚れるのもそうだけどさ、たかが男を振り向かせるために、自分を変える必要なんてねェと思うんだが」
「それは…、」

私は言葉を途中で途切れさせて、目を伏せた。銀ちゃんの冷たい視線と目を合わせるのは辛かったからだ。たぶん銀ちゃんが言いたいのは、私が自分好みではない、相手が好きそうな着物を着ていることだろう。誰かを好きになれば、少しでも相手に自分を良く見せたいと思うのは、至極当たり前のことだと思っていた。でも、男から見たら私の考えは間違いなのだろうか。

「名前、こっち向け」

不意に、俯いていた顎を銀ちゃんに指先で持ち上げられて、私は銀ちゃんを見上げるように強引に顔を上げさせられた。銀ちゃんは、いつもみたいに気の抜けた表情じゃない。ほんの少し私を見下ろして、彼の口元は意地悪そうに歪んでいた。

「俺ァ、ありのままの名前が好きだぜ?」
「えっ…?」

銀ちゃんは、私の額に唇を近づけて、わざとらしくリップ音を立ててキスをした。「は…?」と私は疑問を浮かべることしかできなかった。きっと周りから見たら、私は物凄く間抜けな表情をしていたに違いない。数秒間、世界の時計が止まったみたいに、私の五感は何も感じることができなかったのだ。ただ一つ、第六感だけは敏感に新しい何かを感じ取って、それを私に伝えている。

「いい加減さ…俺に気付けよ、ばーか」
「ぎん…ちゃん…」

この感覚はなんだろう。初めての感覚に私は戸惑うことしかできなかった。心臓はうるさい…というよりも、痛いくらい速く動いて血液を全身に送り出している。何か言葉を紡ぎだしたいのに強張って震える唇は、息を吐き出すだけで精一杯だった。これが恋…?と思った瞬間、私は、銀ちゃんと真っ直ぐ見つめ合うだけで、胸が苦しい位ざわつくようになってしまった。

恋を見つけた日

Fin.

あとがき
長さの都合上、カットした設定をこっそりと公開。
ヒロイン12歳→蜜柑をくれた高杉に初恋。銀さん達にいじられる高杉を見て数日で冷める。
ヒロイン15歳→落ち込んでいたところを慰めてくれた桂に惚れる。やっぱり変な人だと気付いて冷める。
ヒロイン18歳位?→攘夷戦争に参加中、助けてくれた坂本に一目惚れ。やっぱり変な人だと知って冷める。

こんな感じで一方的に惚れて冷めていたのを、ぜんぶ銀さんに聞いてもらっていました。

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