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「さて、始めますか!」

家から持ってきたピンク色のエプロンを着て、ゴソゴソと物置から取り出したのはちょっと古い掃除機。新八くんも神楽ちゃんもいない万事屋で、私はいつもの業務を開始した。業務って言っても実際は家事なわけで、しかもそれをこなすのは新八くんと私だけ。新八くんはきっといい旦那さんになるんだろうな、なんて思うと、私はクスリと小さく笑った。

「あれ、##name_1##ってば、張り切ってんじゃん」
「だって銀さんは使い物にならないからさ」
「……」

部屋からふらりと廊下に出てきた銀さんに、私がニコリと笑顔を見せると、彼は物凄い速さでさっと目を逸らして下手くそな口笛を吹きはじめた。わざとらしいこと極まりない反応に、呆れるどころか笑えてきてしまう。私は別に怒ってるわけじゃない。けれど、銀さんが進んで家事をするようにするためにも、きつく言っておかなければならないのだ。私は「今の時代、男の人も家事ができなきゃねぇ…」なんてわざとらしく言って、掃除機のスイッチを入れた。大きな音が廊下にこだまする。がしゃん、がしゃんと掃除機を引っ張りながら廊下と睨めっこしてみるが、新八くんのおかげでそれほど大きなゴミも見当たらなかった。

「ねぇ、そこどいて?邪魔です」
「いい…」

床にスライドさせていた掃除機がガツン、と目の前に立ち止まっていた銀さんの素足にぶつかってしまった。思い切り小指にぶつかったのに痛くないのだろうか。床から目を離して見上げると、彼はポーッとした表情で、譫言のように「いい…、マジでいい」と呟いていた。

「何がいいの?」
「なんつーかさ、新婚さんみてーだ、俺達」
「もう…。だったら、旦那さんはちゃーんと仕事をして下さい。うちの家計は火の車なんですよー?」
「お!それ、最高!」

スイッチが入ったままの掃除機が私の手から離れて、大きな音を立てて床に転がった。ぐらり。身体が大きく前のめりになったというのに、そのまま倒れてしまうことはない。おでこがゴツンと銀さんの胸板にぶつかったことで、彼の腕の中に閉じ込められていることに気付いた。
そういえば最近、2人きりの時間を作ってなかったな。そんな事が銀さんの香りによって頭に浮かんだ。

「どうしたの?私、お掃除しなくちゃいけないの」

そう言ったのに、彼が身体を解放してくれる気配はない。ほんの少し銀さんの胸板を押し返して顔をあげると、その時の銀さんの笑顔は、今はまだ昼間だっていうのに、夜に布団の上で見るような妖しいものだった。ゾクリと、頭よりも身体が先に反応する。このままだと危険だ、と数秒遅れて脳みそが警鐘を鳴らしていた。

「旦那さんは仕事の前に可愛い奥さんを愛したいんですが、どうしたらいいでしょうか?」
「ちょっと…、銀さんッ…!何、してんの、よッ!」

私の身体をグッと抱き寄せる片手が、ちょうどブラのホックの辺りをつつつと何度も行き来して、悔しいけどその動作に身体が捩れるように反応してしまう。口からは「ばかっ」とか「変態っ」なんて言葉が次々に飛び出していった。これじゃあ銀さんの思う壷だ。そう思った私はなにか言い訳を作るために、必死にぼんやりとしてしまいそうな思考を巡らせた。

「えっと…、その…」
「ん?」
「い、今は昼間だもん…」
「んじゃ、電気消して、雨戸閉めればオーケー?」
「だ…、だめ…」
「銀さんはもう我慢できねーの。早く##name_1##を喰っちまいたい」

反論をするための唇を、上から覆いかぶさるように唇で塞がれてしまった。熱い舌が上下の唇を割って侵入して、奥に縮んでいた私のと緩く絡まり合う。ダメだってわかってる。わかってるのに、彼の身体を押し退けようとする手は、徐々に銀さんの着流しを握り締めるものへと変わってしまった。銀さんはゆっくりと離されていく唇で私の下唇を吸い上げると、小さなリップ音が響いた。銀さんの色っぽさに、私は言葉が上手く口から出ていかず、ただオロオロと目を泳がせた。

「すげーイイ顔してる」
「それは銀さんが…ッ」
「もっとイイ顔、見せてくれんだろ?」
「もう………、」
「あ……、最悪…」

銀さんが小さく舌打ちがした。床を見つめていた目をあげると、銀さんは困ったように笑って「空気の読めねーやつ」と呟いた。どうしたのだろうか。キョトンとしていると、階段を軽快に上る音とガラガラと勢い良く玄関を開く音が聞こえた。もしかして、と思ってそちらに視線を投げると、青色の真ん丸な瞳と、赤色のチャイナドレスが銀ちゃんの身体越しに目に入った。神楽ちゃんは私の顔が赤くなっているのを不思議に思ったらしく、ただいまも言わずに、タタタと一直線にこちらに走ってきた。

「銀ちゃん##name_1##に何してるネ!##name_1##に手ェ出したら承知しないアル!」
「ったく…、俺ァ何にもしてねーよ。な、##name_1##?」
「あれ?そうだっけ…?」
「あ、銀さんショック」
「##name_1##、銀ちゃんに何かされそうになったら私に言うヨロシ!私が助けるアル!」
「了解!ありがとね、神楽ちゃん」

私がにこりと笑ってお礼を言うと、神楽ちゃんは満足げに頷いて、昨日、新八くんが熱唱していたお通ちゃんの新曲を、神楽ちゃんアレンジの目茶苦茶な歌詞で歌いながらリビングへと入っていった。まるでお姉さんみたいに振る舞う神楽ちゃん。本当は私よりずっと年下なんだけど、可愛いからいいか。自然と笑顔が浮かんで、そんなことを考えていたら、銀さんは気怠そうに頭の後ろで手を組んで、玄関へと足を進めた。

「あーあー、ジャンプでも買ってくっかな」
「あ…、いってらっしゃい」

銀さんはブーツを履くために玄関に腰掛けた。ふて腐れたような表情に、ちょっぴりご機嫌ななめなのかもしれない。私はその後ろに立って彼の背中を見つめていた。
突然、銀さんは何かに気が付いたように「あっ!」と呟くと、立ち上がって、こちらに振り向いた。ブーツを履いたせいか、いつもより大きく彼を見上げると、キラキラと輝かせた銀さんの瞳が、怖いくらいに眩しく感じた。

「な、何…?」
「なぁ、いってらっしゃいのチューは?」
「もう…、ばかっ」
「ったく、素直じゃねーなァ」

私はぐっと腕を伸ばして銀さんのおでこをペシリと叩いてやった。銀さんはニヤニヤと口元を歪めながら、耳元に一言だけ言葉を残した。熱い吐息と一緒に、するりと大きな手が頬を撫でる。

「っ……!!」

彼の一言に私の顔は一瞬で熱くなって、身体はビクッと硬直。その反応に満足したらしい銀さんは「行ってくる」と言って万事屋を出ていった。
いつも、いつも、銀さんには動揺させられてばかりだ。しかも、私の反応は彼の予想通りらしい。そんなのは悔しいけれど、頭よりも早く心が反応してしまうんだから仕方ない。私は緩んだ頬をペシペシと二回叩いてから、床に転がっていた掃除機を拾い上げた。

妄想新婚生活
「続きは夜のお楽しみ、だな?」

Fin.
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