どんなに好きでも、愛していても、円堂の隣にいられる権利が、俺にはあるのだろうか。

「円堂、」

存在を確かめるように名前を呼べば、目の前でサッカー雑誌に目を落としていた円堂は、ゆっくりと顔を上げて此方を向いた。
そして数回目を瞬かせた後、歯を見せながら円堂は嬉しそうに笑う。

「ん?どうした?」

眩しい。キラキラと笑うその笑顔が、ただただ純粋に綺麗だと思った。思わず目を細めて見入ってしまう程に。

――円堂を好いている奴は俺の他にも沢山いた。
円堂に出会って、彼の笑顔や力強い優しさに惹かれた奴もいれば、俺が円堂を意識し始める前から、ずっと円堂の事を見てきた奴だっている。
そんな競争率が高い中、運良く円堂のハートを射止めさす事が出来たのが俺と言うことだ。

「鬼道?」

円堂の声にハッとした俺は、いつの間にか俯いていた顔を上げて円堂を見つめ直す。円堂の瞳は濁りなんて一切なく、透き通っていていつでも真っ直ぐだ。

「あ……ああ、すまない……、」

そんな純粋な目を向けられてしまうと、今の自分がどうにも情けなくなってしまう。胸の中で渦巻く感情に、吐き気さえ覚えた。

今から俺が言う言葉にコイツはどう思うのだろうか。今は笑っている円堂だが、俺の言葉を聞いた瞬間、その輝かしい笑顔が消えてしまうのが容易に想像出来る。
きっと、困らせてしまうに違いない。

そうは分かっていても臆病者の俺は、この胸の中に渦巻く感情を、思いを、目の前で可愛らしく小首を傾げている愛しい恋人にぶつける他なかった。

「その……お前を好きな奴は、俺以上にお前を幸せに出来る奴は、俺以外にも沢山いるわけだ」
「そんな中、お前は俺を選んでくれたが……俺は正直、お前を幸せに出来ているか分からないし、自信だってない」
「……それでも俺は、これからもお前の側にいても、本当にいいのか、」

自分の感情を、思いを素直に吐き出せば、驚いたと言わんばかりに目を見開く円堂の姿に胸がチクリと痛んだ。

――ずっと不安だった。円堂の笑顔を、みんなが大切にしている笑顔を、守れる事が出来るか、俺を好きだと言ってくれた円堂を、この手で幸せにする事が出来るのか。
ずっとずっと、自信がなかったのだ。

「……鬼道、」

サッカー雑誌をそっと閉じた円堂は正座をすると、改めて此方へと向き直った。そして俺の手をギュッと握る。円堂の、温かく豆だらけの決して大きくはない手が俺の手を包み込んで、今だけは大きく感じた。

「俺は、お前の事が誰より大好きだ。世界で一番好きだ。司令塔として頑張ってるお前も、何気ない事で気遣ってくれる優しいお前も、ゴーグルの下のカッコいいお前も、妹思いな一生懸命なところも、頑張り過ぎてたまに暴走しそうになるところも、全部、全部ひっくるめて、俺は鬼道が、鬼道有人という存在が大好きなんだ。」

ニッと笑う円堂の笑顔は、先程のキラキラしたのとはまた違い、優しさが滲み出ているようなそんな笑顔だった。
繋がれた手からも円堂の優しさがひしひしと伝わり、俺の胸は次第にポカポカと温まり始めていく。

「俺は、お前の傍にいてもいいのか…?」

「むしろずっと傍にいてほしいけど」

えへへ、と照れくさそうにはにかむ円堂をたまらず抱きしめた。
『ずっと傍にいてほしい』その言葉が頭から離れず、ぐるぐると回る。もしかしたら俺は、その言葉をずっと待ち望んでいたのかもしれない。

本当に円堂は凄い奴だ。いつだって俺の欲しい言葉をくれる。今だってそう。円堂の心からの温かい一言で、俺の不安なんてたちまち吹き飛んでしまったのだから。

「俺には鬼道有人が必要なんだよ」

背中に回された円堂の腕は、泣きじゃくる赤子を宥めるように一定のリズムでポン、ポンと俺の背中を叩く。
その温もりを感じつつ、円堂の肩口に顔を埋めた俺は暫くの間涙が止まらなかった。


誰よりも傍に置かれていたい


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円堂くんの傍にいたいけど自分に自信がなくて他の人の方が円堂くんを幸せに出来るんじゃないかと思う気弱な鬼道さんとマリアのような円堂くん


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