雨の日はあまり好きではない。

現在、朝の4時半。外から聞こえる水が降るような音で起こされ、重い瞼を擦りながら時計を見るとその時刻だった。二度寝でもしようかと再びベッドに潜り込むがなかなか寝付けない。仕方ない、もう起きよう。まだ寝ているであろうみんなを起こさないようにそっと廊下を出た。そろりそろりと足音をたてないように食堂に足を運ぶ。ガラリとした食堂は予想通り誰もいなくて苦笑いが零れた。

「雨、降ってるなぁ…」

ふと窓の方へ視線を向けると、水が窓ガラスを打ち付ける様子が目に入った。のろのろとした足取りで窓へと近付く。窓から見える景色は、憂鬱そのものだった。ざあざあ鳴るそれは止まる事なく少しずつ、少しずつ確実に地面を潤していく。今日の練習はどうなるんだろう。無意識に口から重い溜め息が零れた。サッカー、したかったな。そんな俺の思いとは裏腹に、それでも雨は容赦なく降り続ける。暫くぼんやりと窓の外を眺めていると、不意に隣に人の気配を感じた。

「…吹雪?」

何となく顔をそちらへ向けると、其処には吹雪が立っていた。何時の間に食堂へ入ってきたのだろうか。相変わらず白い肌をした彼の横顔は、窓の外へと向けられている。

「やぁおはよう、キャプテン」

吹雪は俺が小さく呼び掛けた声に反応すると、こちらを向いて早いねと、にっこり笑った。挨拶をされたらまずは挨拶で返さないと。おはよう、と返せば吹雪はまた更に笑みを深める。吹雪も早いじゃないか。そう伝えると吹雪は、雨の音で起こされちゃったと苦笑して視線を窓の外へ戻した。俺と、一緒だ。

「雨、降ってるね」

寂しそうにポツリと呟いた彼の横顔は先程の笑顔とは打って変わって困ったような表情になった。吹雪も俺と同じようにサッカーが出来ない事を残念に思っているのだろうか。俺が練習出来ないかも、と小さく言えば吹雪は驚いたように目を見開くと小さく笑った。

「でも、午後からは晴れるらしいよ」

良かったねキャプテン、そう言って吹雪はまたにっこりと笑った。午後から晴れる事を聞いて嬉しくなったが、よく考えてみれば普段天気予報をちゃんと見ていない事がバレたみたいじゃないか。何だかちょっぴり恥ずかしい。チラリと吹雪を見れば、ニコニコと効果音がつきそうなくらいの笑顔で此方を見ていた。

「そ、それじゃあ午後の練習は出来るな!」
「そうだね。……でもたぶん、グラウンドはぬかるんでるだろうけど……」
「それでも、」
「『やる!』でしょ?」
「!」

目をパシパシさせて吹雪を見ると、彼は首を竦めてクスクスと笑っている。まだキョトンとしている俺に、笑うのをピタリと止めた吹雪が視線を重ねてきた。お互いそのまま数秒間見つめ合う。静かな空間には、雨の音しか聞こえない。何だか急に可笑しくなって、耐えきれず二人同時に吹き出した。

「午後まで、何しよっか」

吹雪の穏やかでゆるゆるとした声が俺の鼓膜を揺らす。雨は午後まで止まない。急に眠気が襲ってきた。とりあえず、二度寝したいな。吹雪と一緒に。そう吹雪に言うと、彼はまだ5時だもんねと時計を見ながらクスリと笑うと俺の手を握ってきた。繋がれた手はひんやりとしていて、やっぱり吹雪は低体温だと確認させられる。少し前にそれを言うと"キャプテンが子供体温なんだよ"って笑われたっけ。一定のリズムで、でもゆっくりした歩調で吹雪の部屋を目指す。

「おやすみ、キャプテン」
「おやすみ」

吹雪のベッドに潜り込むと、いつも吹雪からする良い香りが漂い俺の鼻を擽る。その香りは俺の一番大好きな匂いで、凄く落ち着いた。

「いい夢見てね」

チュッと可愛らしいリップキスを額に落とされる。未だに繋がれた手と手を決して離さないのは、お互いの温もりを少しでも感じ合いたいからだろう。

「吹雪、大好き」

吹雪の温もりと、匂いと雨の音に囲まれながら俺は夢の世界へと向かった。

たまにはいいかもね
(こんな雨の日も)



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