砂浜に打ち寄せる波の泡沫がはじけてキラリと光る。地平線の向こう側に沈む夕日を背景に宙を自由に舞うそれがとても綺麗だ。その様子は昔沖縄で見ていた頃から大好きだった光景と重なって、途端に沖縄の海が恋しくなる。俺は今日本の宿舎の近くにあるライオコット島特有のブルーが綺麗な海に来ており、相棒のサーフボードを隣に柔らかい砂浜に腰を下ろしながらその光景をぼんやり眺めていた。



俺は何か悩みがあるたびに必ず海にくる。良い波に乗れば何も考えなくて済むからだ。ひたすら波に乗って、乗って、乗る。そうやってがむしゃらにただただサーフィンに打ち込んでいくうちに、こんなデカい海に比べれば俺の悩みなんかちっぽけなものだと気付きだんだんどうでも良くなってくる。そして最後には吹っ切れて、胸のもやもやも全部吹き飛ぶのだ。

普段の俺ならそんな単純な事で、はい悩みは解決!なのだが、今回はそう簡単にはいかなかった。いかなかったというか、初めてだった。いくら波に乗っても、気分が晴れない。良い波が来ている絶好のチャンスも普段なら絶対逃さないはずなのに、そのチャンスさえ逃してでもついつい考えてしまう。それに乗れば乗るほど、もやもやが増えていく感じだ。

(何なんだろーなぁ……)

この気持ち。胸がぎゅっと締め付けられて、少し切ない感じ。でもその中にも嬉しいとか悲しいなとか、そんな感情も確かにある。こんな気持ち、初めてだった。しかもそれは、円堂を見るたびに起こるものだからますます分からない。円堂を見るたびにこんな風になり始めたのは、こんな気持ちを感じ始めたのは最近の事だから。

例えば円堂が他の奴と喋っている時、胸の辺りが少し切なくなる。例えば円堂が俺に笑いかける時、何故だか胸がぎゅっと締め付けられて心臓が煩く脈打つ。例えば円堂が嬉しそうにしていると、俺まで嬉しくなる。―そんな気持ちが次々と湧き上がってくるのだ。

「あーーッ!わっかんねぇッ!!」

こんなに何かを考える事は俺らしくないのは分かっているけど、考えられずにはいられない。だけど普段あんまり物事を深く考えないバカな俺は、考えれば考えるほど頭がパンクしそうになった。頭をぐしゃぐしゃに掻き乱して叫んでみても、何も変わらない。何も変わらないからこそ、余計虚しくなって苦しくなる。

――何なんだよ一体。自分の事なのに全く分かんねえ。俺は俺だけど、俺じゃないみたいだ。誰だよこれ、本当に俺か?実は乗り移られてんじゃないか?なんてアホらし!ダメ、ダメだ。とうとう俺の脳細胞が考える事を拒否し始めたようだ。これ以上ここで考え続けても、何にも思い付かない気がする。それに下手すれば俺ならここで一晩ぐらい過ごしそうだ。はぁ、という溜め息と共に重たい腰を無理矢理上げて改めて海と向かい合う。

「なぁ円堂、俺どうしたら良いんだ?」

ポツリと揺れる海に問い掛けても、返ってくる返事は潮風に吹かれる囁かな波の音だけ。当たり前の事なんだろうけど、何故かそれが今の俺には酷く辛く感じた。

(……本当にどうしたら良いんだよ、)

オレンジ色の空が紫色に変わった頃。結局この悩みは解決する事なく俺の胸にもやもやと取り付いたまま、少しの空虚感を抱えて宿舎へと重い足取りで戻るのだった。


さざなみ、ゆらり


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自分の想いに気付かないにーにを書きたかった結果こうなっちゃいました。


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