※鬼道と豪炎寺は名前だけの登場
※へたれ風丸と確信犯円堂



「風丸!」

後ろからの聞き慣れた声に条件反射のように足が止まる。振り向かなくても分かるこの声の持ち主。毎日毎日飽きれるほど聞かされれば嫌でも分かってしまう。…いや、実際の所飽きれる事もなければ嫌になる事もないのだが、

「風丸!おはよー!」

くるりと振り返るとやっぱりそこには俺の予想通り、小さい頃からの幼なじみの円堂がいた。走ってきたのか少し息が乱れている。

「ああ、おはよう、円堂」

ニコニコ笑いながらおはようと言う円堂に自然と口角が上がるのを感じつつ俺もおはようと返すと、また嬉しそうに笑うもんだからたまったもんじゃない。

目尻まで下がってしまうほど顔が緩んでしまうのを何とか我慢して、円堂と二人並んで歩き出す。すると眠たいのかふわぁぁと欠伸をして目を潤ましながらむにゃむにゃ言う円堂に、何でこんなに可愛いんだ!と心の叫びを必死に抑えてあくまでいつも通り、何もなかったかのように平然と話かけた。

「昨日は遅かったのか?」

「……うーん、ちょっとな、」

「どうせゲームでもし過ぎたんだろ」

「いや、違うよ。鬼道と電話でフォーメーションの確認とか作戦考えてたらついつい話込んじゃって……」

ふわぁぁともう一度欠伸をしながら歩く円堂の横で俺はピシリと身体が硬直してしまった。

え、今、何て?鬼道と電話って聞こえて……え?…円堂が、鬼道と、電話?

「?風丸?どうしたんだ?」

固まったままピクリとも動かない俺を不思議に思ったのか円堂が俺の顔を覗き込んで尋ねてくる。カチリと合った茶色の瞳は俺の引きつった顔が映るほど透き通っていた。

「…鬼道とそんなに長い時間電話してたんだな」

「?うん?そうだぜ?」

楽しかったなぁーと昨日の夜の事を思い出したのか笑みを浮かべる円堂を見ると楽しそうに電話をする円堂と鬼道の姿が容易に想像できた。

大方、

『円堂、フォーメーションの確認をしたいのだが……出来れば作戦の方も』

『ああ、いいぜ!』

『すまないな、円堂』

と、サッカーに関する話題で円堂を釣るという鬼道の作戦だったのだろう。

流石天才ゲームメーカーは思い付く事が違う。おかげ様で(俺の)円堂は寝不足だ。

(円堂と長電話しやがって…!あの変態ゴーグルマントめ…!)

ギリギリと歯軋りを立てながら勝ち誇ったような笑みを浮かべるアイツを思い浮かべていると、不意に引っ張られた制服の裾を掴む手によって俺の思考は中断された。

「円堂、?」

「風丸、怖い顔してる…」

「え、」

引っ張られた方向、円堂の方へ顔を向けるとそこには眉をハの字に下げて心配そうにこちらを見る円堂が目に入り、ハッとして自分の顔に手をやると確かに眉間の皺がそれを物語っていた。

「何か悩み事でもあるのか…?」

「いや、そういう訳じゃ…」

"円堂が鬼道と長電話した事に妬いた"なんて恥ずかしくて、口が裂けても言えない。ましてや恋人同士でもないのに。言える訳が、なかった。

「……本当か?」

「う、うん、本当だぞ?」

疑っているのかジーっと俺の顔を見つめる円堂。その視線は耐え難いモノがあった。

「本当に本当に本当にか?」

「あ、ああ、本当に本当に本当にだ」

未だにひたすら俺の瞳を覗き込んでくる円堂に耐えきれなくなった俺は、誤魔化すようにほら遅刻するぞ!と言えば円堂は渋々といった感じで俺から視線を外し、これ以上追求する事を諦めたらしい。二人で再び学校への道のりを歩き始めた。

「風丸はいつも一人で抱え込むタイプだからなぁ」

「そんな事、」

「ある!たまには俺を頼ってくれよ!」

ムゥっと頬を膨らます可愛らしい円堂にはちょっぴり申し訳ない気持ちになったが、今回だけは許してほしい。鬼道に妬いたとは流石に言えないのだ。

「ほら、円堂、今日の帰りに肉まん奢ってやるから」

「……………」

「だから機嫌を直せって、な?」

「……………」

「あっ、おでんもつけようか?それとも雷雷軒に……」

「……………」

「……………」

むくれてしまった円堂に困った俺は何とか機嫌をとろうと試みるがどれもこれも玉砕。

大体、こうなってしまったのも全ては円堂と長電話をした鬼道のせいだ。あのゴーグルマントが円堂と電話なんかするから。

また鬼道の勝ち誇ったような笑みを思い浮かべるとむしゃくしゃする。よし、学校に着いたら豪炎寺と炎の風見鶏でも打とう。

そんな一人苛々している俺の隣で、

「素直に鬼道に妬いたって言えばいいのに…」

と、円堂がボソリと呟いた言葉は、またいつの間にか眉間に皺を寄せて鬼道に八つ当たりをする俺の耳にはこれっぽっちも届かなかった。


きみの隣と隣のきみ


(円堂に妬いたなんて言える訳ないだろう?)
(風丸に妬いたって言ってほしかったなぁ)

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風丸さんの想いに気付いている風丸さんが大好きな円堂くんは風丸さんが好きだと言ってくれる日を待っています!頑張れ風丸さん!

少し遅れたけど2/1、風円デーおめでとう!!
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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