※学パロ
※円堂さん女体化
２月１４日。世間一般でいうバレンタインデーの日。はっきり言って、私はこの日があまり好きではない。毎年この日になると軽く憂鬱になる。溜め息だって尽きない。何故こんなにもいけ好かないのか、理由は至ってシンプルだ。何故なら―――
｢…………(キイッ)｣
ドサアアアアッ
｢……………………｣
自分のくつ箱を開けた瞬間。中から沢山の"何か"が雪崩の如く落ちてきた。その"何か"を何かと確かめようと下に視線を落とせば、大量の可愛らしいラッピング袋が目に入る。その場にしゃがみ込んで、ひとつ"何か"を手にとってマジマジと見詰めてみると、それはやはり私の予想通りのものだった。
｢チョコレート……｣
はぁ、と無意識に溜め息が出る。また今年もこんなに――。こんな無愛想で冷たい私の、どこがいいのかさっぱり分からない。ヒロトなら、｢わあ嬉しいな｣なんて人当たりの良い笑みを浮かべながら素直に喜ぶのだろう。しかし私はそんな物で喜べるほど、単純な奴ではないのだ。
｢……取り敢えず、｣
これをどうにかしないと。このまま放置をするのもあれだ。流石に、まずい。不本意ながらも、大量のチョコレートを両手に抱え込む。これを教室まで運べというのか。教室に着くまでの、周りの視線が痛いんじゃなかろうか。はぁ、本日二度目の溜め息が出た。先程のものよりも、更に重たいものだった。
(これだからバレンタインは……)
あまり好きではないのだ。こんな物を貰っても、悪いと思うが正直嬉しくも何ともない。もっと正直に言えば逆に迷惑だ。(こんな最低な自分にチョコレートをあげた女の子には本当に申し訳ないと思うが、)好きでもない、ましてや名前も知らない女子から貰う物ほど、不気味な物はないだろう。
(……早く教室に行かないと)
遅刻してしまう。重たい身体を引きずってでも教室に行こうと腰を上げた瞬間、不意に後ろから明るい声が降ってきた。
｢涼野！！｣
｢！｣
この声は。聞き覚えのある声にバッと後ろを振り向けば、そこにはニコニコとツインテールを揺らしながら可愛らしく笑う同じクラスの円堂が立っていた。
｢…ああ、円堂か…おはよう｣
｢ああ、おはよう！…ってうわ！すっげー数だなそれ……｣
彼女が指を指した方向。そこへ視線を這わせれば、腕の中のチョコレートへ辿り着いた。流石涼野はモテモテだなーとケラケラ笑う彼女に少しムッとする。――別に欲しくて貰った訳ではないのに――。そんな彼女に｢ウルサイ｣とだけ言って、早くこの場を立ち去ろうと怠い足を動かす。しかし重たい足取りでは、なかなか早くは歩けない。
｢なぁ涼野、｣
いつの間にか横に並んでいた円堂が、私の名を呼んだ。何、と少しだけ声を低くして一言返事をすると、彼女はまた可笑しそうに笑った。何なんだ、一体。眉間に皺が寄るのが、自分でも分かる。未だにクスクス笑う彼女へ視線を向ければ、チョコレート色の瞳とバッチリ目が合った。
｢これ、あげるよ｣
そう言って彼女は自身の鞄をごそごそと漁ると、赤いリボンのついた可愛らしい小さな箱を私の目の前に差し出してきた。
｢もうそんなに貰っていらないかもしれないけど、俺の気持ち受け取ってくれよな！｣
それだけ言うと彼女は、私の腕の中の既に山積みのチョコの上にその箱を置くとじゃあ！走り出して行ってしまった。それは余りにも早い動作だったので、私はというとその場に立ち止まってポカンと口を開けるばかり。もしかして、もしかしたらこれは。ハッと我に返り、赤いリボンの箱と走る彼女の背中を交互に見比べる。ツインテールを揺らしながら走り、耳を赤くする彼女の後ろ姿が目に入った私は、自分の顔に熱が籠るのをどうしても抑えきれなかった。
やっぱりバレンタインデーというものはあまり好まないが、まあ、一年に一回ぐらいはこんな日も悪くない。君からチョコが貰えるなら、ね。
火照る顔をそのままに、軽くなった足取りで彼女の待つ教室を目指した。
きみがくれた甘い甘い