※幼なじみ設定
※円堂くんちょっと泣き虫です



明王は優しい。

良く周りの人から"不良だから怖い"とか、"あの目つきは人を殺せる"とか言われるけど、そんな事ない。

みんなが明王を知らないだけだ。不動明王という人間を知らないだけ。

そりゃあ明王は、素直じゃないし、口は悪いし、授業サボるし、売られた喧嘩を買って傷だらけになるし、目つきは悪い方だけど。

でも、それでも明王は不良みたいに悪い事はしない。そこら辺の悪そうな奴らみたいに煙草を吸ったり自分から喧嘩を売り飛ばすような事は絶対にしない。

それに俺に向ける視線は優しいし、たまに遠くを見つめる視線は切なさでいっぱいだ。

少し前、明王は迷子になった子供のお母さんを一緒に探してあげていた。(その子のお母さんにお礼を言われて顔を赤くさせていた明王を俺は見た。)

昨日は、木に登って降りれなくなってしまった猫を助けていた。(昔も今も木登りが苦手なくせに。)

本人曰く、迷子になった子のお母さんを探してあげたのは「ガキがビービー泣いて五月蝿かったからだ!」で、猫を助けたのは「偶然木に登ったらアイツが居て邪魔だっただけだし!」らしい。

顔を真っ赤にさせながらそっぽを向いてそう言っていた。

それを聞いた時は、思わず笑ってしまいそうだった。本当に明王は昔から嘘が下手で、相変わらずだ。

俺、知ってるんだぜ。

本当はどっちも困ってたからだろ?
子供も猫も泣いていたからだろ?

昔から明王はそうだ。困ってる奴や泣いてる奴を放っておけない、そんな奴だった。

そんな明王に俺も昔からずっと助けられてきた。困ってる時も、泣いてる時も、いつも傍に居てくれたのは紛れもないアイツだ。

だから明王は怖くなんかない、本当は優しいんだ。アイツは優しい。明王をバカにする奴らより何百倍も明王の方が良い人だ。

―――ほら、今だってそう、泣いてる俺の頭を撫でてくれる。

だからやっぱり明王は、

「優しいもん、」

小さく呟いた言葉と共に涙が頬を伝った。頭に感じる温もりが凄く安心して俺の涙腺を更に弱まらせる。

「バカ、お前ほんとバカだな」

「だってっ!アイツがっ明王の事をっ!バカにしたからっ!」

「んなもん言わせておけばいいんだよ」

ハァと溜め息を吐く明王に何も言い返せずグッと自分の手に力を込める。

明王はそんな事を言ってるけど、俺には明王をバカにした奴が許せなかったんだ。

――今思い出しても腹が立つ。
へらへら笑いながら明王の悪口を俺に向かってべらべら喋り続けるアイツ。ソイツは一度、明王に喧嘩を売って、明王にボコボコにされた奴だった。

明王に負けた腹癒せか、いつも一緒にいる俺に嫌味を言い、その後一発ぐらい殴るつもりだったんだろう。しかし、先に殴ったのは俺だった。いかにも明王が悪者だと言い放つその口を、気付けば殴っていた。

『お前に明王の何が分かるんだっ!』

『お前が明王を分かったような口を利くな!』

人を殴ったのは初めてだと思う。こんなに怒ったのもたぶん初めてだ。ただただ俺は、明王を知らない奴に明王をバカにされた事が無性に腹が立ったのだ。

俺に殴られたソイツは、そのまま逃げるように立ち去った。俺はと言うと、その場でへたり込んで泣いてしまった。明王をバカにされた事が悲しくて悲しくて。あんな奴に明王の事をとやかく言われた事が悔しくてしょうがなかったから。

そうして暫くしたら此処に来た明王が泣いている俺を見つけてくれた。どうしたんだと凄い形相で聞いてくる明王に泣きながら全て話すと先程の通りバカだなと言いつつ頭を撫でてくれたのだ。

「でもまさかお前が殴るとはなァ」

「!」

「それにビビったわ、此処にきたらお前泣いてるし」

「…うっ……だって……」

「……そんなに腹が立ったのか?」

「!そりゃそうだろ!アイツは何にも明王の事を分かってない!分かってないくせに勝手に……!」

「あーはいはい、もう良いから」

もう何にも喋るな、と次から次へと涙が溢れる俺を明王がギュッと抱きしめてくれた。明王の腕の中はやっぱり温かくて、明王の優しさがひしひしと伝わってくる。鼻腔を擽る香りは明王独特のもので、何だかそれが俺を落ち着かせた。

「ん、明王…」

「ちょっとは落ち着いたか?」

「う、ん」

明王のお陰で少し涙が収まった。ほら、な、明王は優しい。優しいんだ。未だ抱きしめてくれる明王に甘えるように更にぎゅうっとしがみつくと、溜め息を吐きつつも優しく抱きしめ返してくれた。

「…お前は、昔からアホでバカで泣き虫で、そのくせどっか変な所で熱くて、さっきみたいに何しでかすか分かんねぇから目が離せない。どうしようもない奴だ」

「うっ酷い……」

「……まァ、その分お前の良い所は誰よりも知ってるけどな」

「!」

「……サンキューな、守」

「!あ、明王!」

嬉しかったぜ、と小さく笑う明王。

そんな明王にまた涙を流す俺は本当に泣き虫かもしんない。明王は苦笑いしつつもよしよしと背中を擦ってくれる。本当に明王は優しい、俺にとって、世界一優しい。

「明王が優しいのは、俺が誰よりも知ってるから」

「……おう、」

「また明王が誰かにバカにされたとしても、また俺がソイツを殴ってやる」

「……おう、」

「明王は俺が守るから…!」

「……いや、それはムリだろ」

「えっ?」

「泣き虫なお前が俺を守れるわけねぇだろ、」

「!ひ、酷い…!」

また目をうるうる潤ます俺にギョッとした明王はあぁ、その、だから!とか言いながら視線をあちこちに逸らす。

それをジッと見続ける俺と目が合うと、だぁかぁらぁ!と大きな声を出して、照れくさそうに頭を掻きながら今度は小さく、本当に小さく一言呟いた。

「……俺がお前を守るんだって」

「!」

その明王の一言にまた涙が溢れて暫く止まらなかったのは言うまでもない。


泣き虫と本当は優しい幼なじみ


(あーもう泣くなよ!)
(うゔ…だっで……明王がぁ…!)
(ほんとお前泣き虫だな…はぁ、)
(…ゔっ…ひっく、明王大好きぃ…)
(!バカ!何言って…!)
(!……明王大好きぃー!!!)
(うわぁぁあぁああ泣きながら叫ぶんじゃねえぇえぇええぇえぇええ!!!!!)


――――――――――――――

また色々とやらかしました。
すいません。


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テーマ「人外ファンタジー」
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