※完全パラレル
※結婚するヒロトと幼なじみな守
※
これの続き
あれから一時間。
何をするわけでもなく何を話すわけでもなく、狭い玄関にただ二人、腰を落ち着かせるだけ。
この静かすぎる空間の中、先に沈黙を破ったのはヒロトだった。
「…もう、俺達、会えないんだね」
そう消え入りそうな声で呟いた彼の言葉は俺の耳にははっきり届いて、虚しいくらいに胸に響いた。
グッと唇を噛み締め、涙が零れそうなのを必死に我慢する。こんな時に何も言えない自分が情けなくて仕方ない。
「守に会えなくなるなんて、悲しいよ」
「………………」
「ほんと、悲しくって仕方ない、」
ヒロトの目から溢れた涙は頬を伝ってするりとすべり落ちる。
涙で濡れた長い睫毛を伏せて自嘲気味に笑う彼は今までに見たどんな表情よりも切なさでいっぱいだった。
「ヒロト、泣くなよ」
「泣いてなんか、ないよ」
「嘘、泣いてる」
「守こそ、泣かないでよ」
「泣いてなんか、」
ない。
泣いてなんかないよ。泣いてなんかないはずなのに。
涙がするすると頬を伝っていく。溢れて溢れて止まらない。
ヒロトの前では泣きたくなかったのに、ヒロトが泣くから、ヒロトが泣くから俺も釣られたんだ。
きっとそうだ、ヒロトに釣られただけ。この涙が止まってくれないのはヒロトのせい。
不意にヒロトと目が合う。涙を流す彼はぐしゃりと顔を歪めたかと思うと、
「守、今さらこんな事、言っても遅いけどね、俺ずっと、守、の事、好きだったんだ。愛して、たんだ」
震える声で、そう言った。
狡い、ヒロトは狡いよ。本当に狡い。
「なん、で、何で、何で、なんっで………今頃…………そんな事っ………言うんだよぉっ!!!!!!!」
叫んだ瞬間、温かい何かに包み込まれる。それがヒロトの腕だと理解すると先程までとは比べものにならない量の涙が流れた。
「俺だってっ、ずっと、ずっとヒロトの事、お前の事っ!大好きだった。愛してたんだからっ!!」
「!…守っ」
ギュッと更に力強く抱き締められる。
やっとお前に伝わったんだ俺の想い。
でも、もう遅いんだよ、やっと伝え合ったのに、やっと通じ合えたのに、本当に今さら。遅すぎたんだよ俺達。
「守っ…ごめん、伝えるのが遅くなってごめんね。本当に今さらでどうしようもないけど、でも守への気持ちは嘘じゃないから、本物だから……守、こんな俺をずっと好きでいてくれてありがとう、愛してくれてありがとう、」
もう何も言えない。しゃくりあげて泣き崩れる俺はとても喋れるような状況じゃなかった。
なのにヒロトは、
「ごめんね守、忘れて、俺の事なんか忘れて、こんな狡い人間なんか忘れて、可愛いお嫁さん貰って、幸せになってよ。お願い、幸せに、幸せになって」
こんな事言うんだ。
ごめんねを繰り返すヒロトを殴りたくなった。
お前の事、忘れるなんて、ムリに決まってるだろ。長い間蓄積されたこの想いは、そんな簡単に崩れるようなものじゃないんだ。何で分かってくれないんだよ、バカヒロト、本当に大バカ野郎だ。
この温かいヒロトの腕も、頭を撫でてくれる大きな手も、透き通るような白い肌も、それに映える艶やかな赤い髪も、長い睫毛に縁取られた宝石みたいに綺麗な翡翠色の瞳も。
全部、全部、忘れる事なんか出来ないんだよ。
「今までありがとう守、」
「……ヒロト………ばぁかっ……!」
「うん、俺は本当に、どうしようもないバカだよ、……どうしようもない、ね」
さようなら、守
最初で最後のキスは涙のしょっぱい味しかしなかった。
―――――ずっと愛してる
ドアが完全に閉まる直前、俺が聞いたヒロトの最後の言葉だった。
戻れないのよ―――――――――――――
なん色々とやらかしてしまいました。すいません。