「な、んで」
「……円堂、」

いつもの明るい顔からは想像もつかないくらいに顔を歪ませる円堂は本当にいつも無邪気に笑う円堂なのかと聞きたくなる。

薄く膜を張り、ゆらゆら揺れ動いて、それでいても真っ直ぐな瞳で何故?と訴えかける円堂の視線はまるであの時の瞳そのものだ。

「なんでだよ…バダップ……っ!!」

そう、あの時の、オーガと雷門中の試合中に見せた、真っ直ぐで純粋な綺麗な瞳だ。

「もう、此処には居られない」

俺が再び過去に来てから2年余り、とうとう未来に帰らなければならない時が来た。

元々、俺は本来の目的を果たすために此処に来た。
それはヒビキ提督に任された"円堂守を過去から抹殺する"という何とも非道な任務を果たすことだった。
オペレーションサンダーブレイクで任務に失敗した俺達。そのトップである俺に責任と共に最後のチャンスを与えたらしい。
その話を聞いたときはいろんな疑問が渦巻いてしょうがなかった。

何故、純粋にサッカーを愛する円堂を抹殺しなければならない?本当にサッカーは悪いものなんだろか。俺達のしていたことは間違いだったんじゃないだろうか。円堂は本当に悪いヤツなのか?

いくら考えても仕方ない。
ヒビキ提督に逆らえない俺は結局この任務を受けるしかなかった。

「任務は失敗、未来に帰らないと」

いざ、過去の円堂の元へと行くと円堂は暖かい笑顔で迎えてくれた。

"何でここに?"と問う円堂に"任務に来た"なんて言えない俺は"過去のサッカーが知りたい、教えてほしい"と言った。
するとキラキラ瞳を輝かせて"もちろんだっ!"とそれはそれは嬉しそうに笑った円堂を今でも覚えている。

「任務って何だ…?バダップは、俺達のサッカーが知りたいからここに来たんだろ…?」

円堂を抹殺する事が今回の任務。

そう頭のどこかで分かっていても円堂の優しさや楽しいサッカー、円堂の母の暖かい食事、人の温もり、戦争ばかりの未来では体験する事が出来ない平和な生活に任務なんて実行出来ずにいた。

何より円堂を抹殺する事なんて俺には出来ない。
一緒に過ごすうちに無意識に円堂に惹かれていったからだ。

過去に行って2年もの間、まだ円堂を抹殺していない俺にヒビキ提督は痺れを切らしたのか今日突然、強制帰還を命じた。

未来に帰るともう二度と円堂に会いに行く事も出来ないであろう。
なんせ、最後のチャンスだったのだから。

「円堂、」
「う…ん?」
「俺は元々、お前を抹殺する任務を与えられていた」
「…えっ、」
「でも、心配するな、俺はお前を殺す気なんてさらさらない」
「………」
「殺すならもっと早く殺っていたさ」
「…バ…ダップっ…」
「円堂」

チラリと円堂を見ると何とも言えない表情をしていた。泣きそうに、ぐちゃぐちゃに顔を歪ませて。

「……俺は此処に来てから未来…俺達にないものをたくさん学んだ、……平和な生活が心地良くなっていたんだ」
「……ぅ…ん、」
「この時代の世界がいつの間にか好きになっていた」
「…ぅん……ぁっ!」

円堂が声を上げ、わなわなと震える指を俺に突き向けてきた。
そこには消えかかる俺の身体があった。

「……もう時間みたいだな」

―――これで円堂とお別れか。

円堂へと視線を向けると自身の唇を噛みちぎるんじゃないかと思うぐらい唇を噛み締め、我慢していたのであろうとうとう大きな茶色の瞳からは零れんばかりの雫が溢れ出てきた。

「円堂」
「…っ、バダップ…っ」

止めろ、泣くな、泣かないでくれ、俺だってお前と別れたくないんだ。
円堂の泣き顔を見ると鼻の奥がツンとした。

「バ…ダップはっ、任務っ失っ敗しちゃってっ、どうっなるんだっ、…ううっ……ぐすっ」
「……もうお前と会える事はないだろう……それに、」
「……うっ……ひっく……」
「もうサッカーも出来ないかもしれないな、」
「!!」

パアアアアッと俺を取り巻く光が一層に輝きだした。
それと同時に円堂の涙も益々零れ落ちる。

「ううっ…ぐすっ…ひっく」

本当にもう最後のようだ。

自分が消えてゆくの感じる中、最後に円堂にどうしても伝えたい事があると円堂の濡れきった瞳を見つめた。

「円堂、」
「!!バダップ!!」
「お前がずっと好きだった」
「!!」

消えてゆく中で伝えた、俺の精一杯の気持ち。ちゃんと円堂の心に届いただろうか。

(これで思い残す事はないだろう)

頬に流れた冷たいモノは生まれて初めて流した俺の涙だった。



サヨナラ愛した人



(その後円堂が、)
("俺もバダップが好きなんだ")
(と言ってくれたのは)
(もちろん知らない)


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