「ね、天馬」

まるイスに腰を下ろして、僕のサッカー雑誌を一生懸命読んでいる天馬に声を掛けた。夕日のオレンジが病室に目一杯差し込み、それが天馬を夕焼け色に染めている。部活が終わった天馬はその帰り道に、今日も僕の病室に寄って来てくれているのだ。

「なぁに?太陽」

僕の呼びかけに反応した天馬はサッカー雑誌から顔を上げて僕の方へ視線を移した。首をこてんと傾げて不思議そうに此方を見つめる天馬が堪らなく可愛い。そんな天馬にニヤけてしまいそうになる頬を何とか抑えて、なるべく、あくまでも優しい笑みを浮かべる。

「あのね、」
「うん」
「キスして」

自分の口元を指差して、此処にと言う意味を込めながらちょんちょんと軽く叩いてそう伝える。そんな僕に天馬はと言うと、何を言われてるか分からないと言うように口をポカンと開けさせていた。

「……へ?」
「だぁーかーら!キ・ス!天馬からキスしてほしいんだ。……天馬ならしてくれるでしょ?」

首を傾けて天馬の瞳をジッと見つめる。それからお互い数秒間見つめ合っていると、天馬は漸く意味が理解出来たのかたちまち顔を赤くさせてパニックになり始めた。

「なっ…!ななな、何で!?」
「だっていつも僕からでしょ?ね、お願い天馬!」
「えっやだよっ恥ずかしい!」
「そんなに僕とキスするのが嫌?」
「そっ…そういう訳じゃないけど…」
「じゃあ良いでしょ?ね!」
「えぇ〜っ………」

顔をますます赤らめて困ってる天馬は凄く可愛い。可愛いんだけど……!このまま面会時間が終わるまでこの状態だと、また明日天馬が来てくれるまでお預けをくらう事になる。流石にそれは勘弁!なので、でもっ、とか、ううっ、とか、まだ渋る天馬に強行手段を使う事にした。

「天馬……」
「太、陽……?」
「どうしてもダメ、かな」
「!」

眉を下げて目を潤ませて、シュンとする表情を作った僕は数秒その表情で天馬を見つめ、そのまま天馬に向けていた視線を下に落とした。

「たっ太陽…!?」
「天馬がキスしてくれないから…」

天馬が僕のこの表情に弱いことは知っている。優しい天馬の事だからきっと直ぐ謝って、その後は渋っていたキスも簡単にしてくれるだろう。その証拠にほら、天馬はわたわたと慌てながら未だに下を向く僕に一生懸命声をかける。そんな天馬に僕は心の中で謝った。ごめんね、天馬。でも僕だってたまには天馬からキスしてほしいんだよ。

「ごっごめんね太陽!……あ、あの顔上げてくれないかな?」
「え…?てん、」
「(ちゅっ)」
「!」

ま、と続くはずの言葉は、天馬によって遮られてしまった。ほんの一瞬だったけど、天馬の顔が近づいてきて、それから唇に温かくて柔らかい感触がして……。

「て、天馬…?」
「〜〜〜〜っっ!」

え?と、混乱する頭で天馬を見ると、顔を真っ赤にさせて俯く姿が目に入る。その瞬間分かったのは、僕の唇に触れたのは天馬の唇って事と、天馬から初めてキスされたって事だった。

「天馬!キスしてくれた…「うわぁあぁああぁあっ!!」…可愛い!!」

その後天馬の大声に何事かと飛んできた冬花さんに、こっぴどく叱られたのはここだけの話。


僕を愛するためだけのくちびる
(「天馬、ありがとね大好きだよ」)
(「……バカ!」)

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