別に、ナニもしていない。ただいつものようにいつもの日常を過ごして、アンタといるたかが一日の三分の一程度の時間を一緒に過ごした。日も暮れてなのに帰る気になんてなれなくて、丁度両親が出払っていることを理由に息子さんを一晩貸してください、と謙也さんのオカンに電話したのはほんの数時間前のこと。流石に育ちのいいとこなだけに二つ返事で頷いてはくれなかったが、差し支え問題無いよう言いくるめて受話器を置いた。
最初は謙也さん自身も悪いだなんて言っていたけど、頻繁に来る場所なだけに直ぐに慣れて今じゃ俺のベットを占領して寝る始末、真っ黒の薄い布団の上に散らばる金色が思いの他柔らかそうで気づけば手を伸ばしていた。毛先を弄れば少し傷んでいるものの見た目に反して猫っ毛な髪質なのかふわふわと想像以上に柔らかい。気持ちがいい、同じ洗髪料を使ったはずなのにそれとは違って安心する匂いに俺はただ髪を指に搦め捕ってさらさらと滑り落ちる金色を時計の秒針を聴きながらぼんやりと眺めていた。


彼を恋愛対象として見ている事に気付くには大して時間はかからなかった。それは自分がマイノリティな人間だという訳ではなく、その類に偏見が無かったというだけで、
誰が誰を好きになろうと自分の知ったことではないし、何より人間男と女しか居ないのだから平等に比率を計算すれば二人に一人は同性に恋心を抱いても可笑しくはないはずだ。確かに子孫を残す事が本来持つ男女の役割ならば、同性愛は邪道かもしれない。しかし子孫を残す事が必ずしも"好き"とイコールで結ばれるかは話が別だ。好きならば子供を作らなければいけない?
傾向と役割に流されて、同性愛なんてと非難して、ただの性欲処理だと罵倒され、不純なモノと突き放す。好きなのに、愛してるのに、それだけでは不満だなんて、
なんて大人気ない現実。


(そんなん、知らんわ)


俺は謙也さんが好きだ。屈託なく見せる笑顔も、惜しみなく振り撒く優しさも、俺の変わりに泣いてくれるその涙も、ただ傍に居てくれる謙也さんが好きだ。勿論謙也さんとのセックスは好きだ。それは子供が欲しいんじゃない。相手が謙也さんで、深く交わりたくて、俺が知らないところなんて無くしたくて仕方ないくらい謙也さんが好きだから、ヤりたいと思う。
身体だけじゃない、心も繋がってお互いの好きが通じ合う行為。俺達のセックスは"愛し合う事"が目的だ。それこそ、本来"子孫を残す"為の大切な行為だから、見えない感情にも確信が持てるのかもしれない。
子供なんていらない、男だからなんて関係ない。現に俺達はお互いに思いが通じて、幸せなんだから。



「ん、」
「謙也さん」
「ひ、かる」

整った顔立ち、すらりとした輪郭、薄くて柔らかい唇から漏れる吐息、微かに揺れて俺は顔を寄せた。色素の薄い長い睫毛がゆっくりと持ち上がる。覚束ないスカイブルーの瞳が俺へと向けられて、途端謙也さんの顔がふにゃりと崩れた。


「へへ、俺・・・今、めっちゃ幸せ」


ふんわりと笑う謙也さんの手が、髪を絡めていた俺の手と重なる。暖かい体温に俺の鼓動が溶けて、どうしようも無くなる。



(なんて、愛おしい)


寄せた顔に額を合わせて俺もです、と呟いてから俺達はそっと唇を重ねた。




悲惨な現実に閉じ込められて
(それでも僕等は愛を求めた)




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11.04.30




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