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  この気持ちに名前をつけよう




季節は巡り、校内に植えられた桜は全て若葉へと色を変えた。時期は5月、本来ならばクラス内や部活である程度のグループや友達だといった輪が形成され慣れない日々に溶け込もうと努めるのだろうが、俺は違う。
此処へ入学すると同時に更に二個増やしたピアス。中学生ながら何をしているのかと入学初日から教師に怒鳴り付けられた時も、軽く睨みつけてはスルーするような俺に周囲の連中は自然な対応をしてきた。話しかけない、近寄らない、目を合わせない。元々人とつるむのが好きではない俺にとってこれは好都合でしかなかった。
昔から何かと声をかけたくなるような要素を含んでいたらしい俺は、既にこの頃にはもう人と協調して生きる無意味さに嫌気が刺していたのだから。

『ひかるくんて、すらっとしててカッコエエよね』
『名前に似合って、素敵な人なんやろ?』

昔の記憶、過去のただ傷付けられるだけの自分を思い出して拳を握った。周囲の言葉が、視線が、俺の人に対する意欲の軽減に歯車をかけた。そんな上辺だけの馴れ合いなら必要ない。馬鹿馬鹿しい他人の理想に付き合うのは御免だった。俺の内面など、何も知らないくせに。



授業も一段落つき、今日は久しぶりに何処か気持ちが高まっている事に自分でも気が付いたが抑える事などできなかった。

(やって、今日は・・・今日から!)

また、再びテニスができるのだ。
中学に入学する前から地元のテニススクールに通っていた。誰に進められた訳でもなくただ純粋に興味を持って、ただ純粋にテニスが好きになった。テニスをしている事を理由に近付こうとしてくる奴らもいたが、全て無視した。俺にとってテニスは馴れ合いの道具でも友達を作るためのモノでもない。
ただ、テニスが好きで楽しかった。それだけだった。


仮入部期間を終え、今日から本格的にテニス部員として部活に加わる事になる。新入部員な俺達にはジャージやユニホームがあるはずもなく学校指定の体操服に着替える。そわそわして喋りながら集まるその集団と少し距離をとって待っていれば、先輩と思わしき人が前に立ち意気揚々と歓迎の挨拶を述べはじめる。髪の色素の薄い、細身で長身の男の話に回りの奴らの視線は釘付けになっていたが、俺は大して気に止めなかった。
どうやら記念すべき部活初日は自己紹介を含めたミーティングのようだった。久しぶりにラケットを振れると少なからず期待していたテンションは一気に下がりただぼんやりと先輩の話す言葉を聞き流していった。
次第にだるい、こんなんやったらサボればよかった等と考えていればスッと視界の明度が下がる。誰が目の前に立っているのかと思い嫌な表情はそのままに顔をあげれば、これまた細身で長身な・・・、ヒヨコ頭。


「今の話えらい怠そうに聞いとったなあ、自分」

にしし、と歯を見せておかしそうに笑う金髪。着ている服を見ればいとも簡単に先輩と知れてため息を飲み込んだ。どうやら知らぬ間にミーティングは終わっていたらしい。フェンス越しに期待の目を向けている者や感嘆の声をあげている者を見れば今の時間は見学、といったところだろうか。改めて目の前の人物を見れば綺麗なスカイブルーの瞳と視線が合わさった。その時、妙な違和感に駆られてその顔をまじまじと見つめてしまった。

「お前、テニスめっちゃ好きやろ」

ドキリ、図星をつかれて心臓が高鳴った。考えていることを当てられる事など、親や兄ですら一度も無かったというのに・・・。


「名前は・・・?なんていうん」

屈託ない笑顔、消して厭味など含まれない弾んだ声、優しく俺を見据える空色の瞳。そのどれもが今まで俺と関わりを持とうとしていた者とは別の、全く知らないモノに感じられて、どう対応していいのかわからなくなった。どうしていいのかわからなくて、咄嗟に出たのは、ただ自分の名前を告げるだけの淡泊な言葉だった。


「ざいぜんひかる、か。ひかる、光!キラキラしたええ名前やな」

お前とテニスしてみたいわー、そういって俺の柔らかく笑うアンタに、今までは嫌いだった俺の名前を呼ばれる行為が、何故か、今回だけは、嬉しくなった・・・。

「せ・・・の、・・・まえ・・・」
「ん?なんて?」
「先輩の、名前は・・・」

思った以上に、声が出てない事に自分自身でも驚く。いや、まずそんな事よりも、なんで素直に答えた?なんでいつもの厭味が言えない?なんで、
なんで俺は、この人に興味を持っている・・・?
頭がぐるぐると色々な思考で埋め尽くされる。気持ちを言い当てられた理由も、今の自分も、わからない、わからない。なんで、なんでなんで。訳が、わからない。ただ確かなのは・・・

「あぁ、自己紹介がまだやったな」

「俺は忍足謙也言うねん」



「よろしゅうな、光」



キラキラ、俺の名前みたいに笑いかける、この人の傍におりたいと。思ってたしまった自分がいることだった。



自分の気持ちに気付くまで
(足りるだけの時間を費やそう)


(初恋だと気付く必要な時間)


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100803






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