(3/24)
  入り込む隙間など無いのです




「スピーディーちゃーん、ほーら!光が来たでー、挨拶しいや〜?」

俺も大分、慣れたモンだと思う。目の前の図体のでかい突然変異したような、トカゲ。否、この最愛の恋人が飼っている爬虫類という種族の恋敵に。
のし、のしとゆっくりとした動作でこちらへ近付いてくるかと思えば、少しだけ頭を上げて視線をかちあわす。しかし直ぐに愛しのご主人様の元へと足を進めていった。これが、コイツなりの挨拶らしい(謙也さん談)

「よしよし、ええ子やなぁ〜!」
俺の気も知らずに隣の親バカは、自らの足元に縋り付く巨大トカゲ(これ言うと謙也さんにごっつ怒られるんやけど)を抱き抱えてニコニコ満面の笑みを浮かべた。イグアナもどこか嬉しそうに見えるのは気のせいでは無いだろう。


謙也さんの家に行くと、いつも決まってこのパターンから始まる。たまに親戚の家に預けているのだとスルーできる時もあるが、確実といって良いほど彼は自分のペットと俺を対面させるのだ。理由なんて知らない、ただ初めのうちは流石の俺でも、ぶっちゃけ引いた。何処をどう見ても可愛いなんてカケラも思えず、半径三メートル以内に近寄ることさえ俺には苦痛でならなかった。まあ、今となってはそれにも慣れ、抱き抱える事もできるようにはなったのだが・・・。


「あ、こら!スピーディーちゃん!くすぐったいて・・・!」

あはは、と楽しそうな笑い声を上げながら気付けば謙也さんはイグアナに顔の回りを嘗められていた。日常の中でも、主従関係の良い飼い主とペットの間でよく見る光景だ、しかし。

(こん人は俺のなんやけど・・・)

ずん、と怒りが込み上げて来るのは言うまでもなく、イライラとした感情と共に徐々に高まっていく嫉妬のパラメータは確実に上がっていく。醜い、子供並な器だと思われても良い、生憎恋人に関しては一切の良心や寛大な心など、赤の他人にくれてやる気は微塵もカケラすら無い。


「くすぐったいてーって・・・っ!な、なんやねん光?!」


グイッと謙也さんにのしかかる元凶、俺のにっくき恋敵を両手で捕らえ、引きはがす。このまま三枚におろしてやってもええんやけど、目の前の当人が悲しむのは考えずとも知れてる事なので、ただ自らの膝の上に軽く乗せるだけにした。
謙也さんもコイツも俺の行動に頭がついていかないのか、視線をキョロキョロしとる。謙也さんかわええなあ、なんて思っとったら徐に恋敵は俺の方へ向き合った。


「なんや、文句あんのか。」
「・・・」


無言、ただしばらく視線を交差させて睨み合う(俺の一方的な睨みかもしれへんけど)。謙也さんは未だ状況が掴めず頭に?を浮かべていた。
すると、これまたゆっくりとした動作で俺の体を支えにつかってこちらへ顔を寄せてきた。なんやコイツ、何がしたいねん。まかさ俺を食う気やないやろうな・・・。なんて考えた矢先やった。


むちゅ。


は?思考は停止、フリーズ、つまりは状況整理の時間が必要で、これはつまり・・・



「ああああああああああああ!!!!!!!!!!なななにやってんねんスピーディーちゃあああああああああああああいあああんこんあほおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


流石はスピードスター。俺と今まで恋敵だと思っていたコイツを引きはがすのは一瞬だった。
口に残る僅かな感覚。紛れも無い、俺はこのイグアナにキスされた。

(あー、なんやあのイグアナ俺の事好きやったんかい。謙也さんと間接ちゅーしてもうた。でも、やっぱり謙也さんのがええなあ・・・)

(お前も光が好きやったんか!!?っ、光は俺のやっちゅー話や!!)


謙也さんは目の前でイグアナをブンブン前に後ろに揺らしとる。あーいつもあんなに大事に扱こうてるのに。なんや、ちゃんとヤキモチ妬いてくれてるんやんか・・・。本間に、かわええ人やな。ふ、と彼に隠れて笑みを零す。
すっと静かに、謙也さんに身を寄せる。イグアナを掴む手に俺の手を沿えて制すれば視線は自然と交錯した。

「謙也さん」
「な、なん・・・?」
「消毒してや」
「は?何言って・・・んぅ・・っ!」


イグアナの、目の前で、見せびらかすように、見せ付けるように深く唇を這わせて舌を捩込み愛撫する。いきなりの事に謙也さんは目を見開いて、最初こそ抵抗を見せたものの後頭部に回した腕のお陰でその抵抗は失敗に終わった。歯茎をなぞり、舌を絡めて甘く噛む。くちゅ、くちゅと業と音を立てて唾液を交換すればきゅ、と謙也さんが俺の服の裾を掴んだのがわかった。
今日の初キスが深いものだから、息の上がり方がいつもより早い。うっすらと目を開けてみれば顔を真っ赤にさせながらも俺のキスに溺れてる愛おしい彼が映った。
少し物足りないくらいでゆっくりと、唇を離す。離すと同時にひいた糸まで搦め捕るように、彼の唇を一嘗めすればぼんやりと涙を溜めた瞳が俺を映していた。

「ふぁ、・・・ぁ、」
「アンタの愛しのイグアナに見せ付けれて、キモチ良かったやろ・・・?」
「・・・っ!!ちゃ、ちゃうし!!つかスピーディーちゃんの前で何してんねんっ!!!」

ニヤリ、不適に笑ってみれば更に顔から耳からと紅く染める彼。愛おしくてたまらない彼に、笑みが込み上げてくるのを押さえられなかった。





(すまんな、こんなにかわええご主人様もろて)(悪いけど俺ら相思相愛やねん)(謙也さんは俺ので、俺は謙也さんのやから)

(生憎、恋愛事象はこちらが先手やったな?スピーディーちゃん)

気付けばイグアナの姿は寝床の奥へと消えていた。



========================

10/07/30






(  )




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -