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  × 信号は赤



謙也←光

(暴力表現有、)







口内に小さな砂粒と濃い鉄の味が広がる、少し間を置いて考えれば舌噛んだと他人事のように理解した。チリチリ、頬と掌に弱い痛みを感じるがそれよりも先程蹴られた腹部の痛みの方が何倍も強くて息をするたび喉から風が通り抜けるような音がした。
痛い、いたい、イタイ。単純な単語ばかりが頭を翔ける、苦し紛れに握った手にはあの人と同じ色の携帯。俺は赤よりもっと深い色のカーマインが良かったのに、あの人が赤がええなんて満面の笑みで言うから、仕方なしに?いや、どこか喜んでた、何で?
だってあの人の好きな色やん。あまりに簡単で単純過ぎる答え、それでもあの時の俺には幸せを感じるには十分過ぎた。

「財前、大丈夫か?」

上からふる声、聞き慣れた声、大好きな、あの人の声なのに。
馬鹿みたいにはしゃいで、太陽みたいにきらきらした髪をふわふわ揺らしながら無邪気な笑顔、無邪気?あぁ、無邪気や、とても。
それなのに声色が何時もと違って聞こえるのは、雰囲気がどこと無く違うのは、なぁ、あんたは本間に
「けん、や・・・さ・・・・・・」
「財前、」

鈍い音に伴い腹部に受ける衝動、あまりにも、激痛。耐え切れなかった口からとうとう胃液混じりに赤いもんまで出て来た、汚い、せっかく今まで我慢しとったのに、いたいいたいいたいいたい。

「アカンやろ、んなばっちぃモン出したら・・・なぁ?」

髪を鷲掴みされて引き寄せられる、否、引きずり込まれる。衝動に堪えていた瞼を押し上げればきらきら、太陽みたいに光る髪が脳裏を刺激する、視線をおろせば眉端を下げて苦笑いするあの人がおった。

「汚したら、後始末くらせなアカンやろ?」


だんっ強く髪を掴まれたまま、先程俺が吐き出した(正確には出た)異物にそのまま顔面からたたき付けられた、独特の異臭がする、でもなにもしない。

何も、出来ない。

「あーあ、後片付けも出来ん後輩もって先輩悲しいわぁ・・・」

いつも聞く声となんらかわりない、俺はふと、あの人が帰って来た錯覚に陥った気がした。あの、優しかった、馬鹿みたいな笑顔を向けて、向日葵みたいにきらきらした


(謙也、さん・・・)


うつむせのまま両手首を掴まれ、持ち上げられる、軋む骨に喉が裂けそう、しかし五体には既に力なんて入るはずもなく
グタリ、ぐにゃり
伸の無いマネキンのように重力に従って頭が下をむく。すると背中にピトリ。何かがあてられてそれが足だと気付くには数秒もかからなかった。
力なんて既にない、体力も気力も底を着いた筈だったのに、俺は無意識のうちに視線を後ろ、つまりはあの人の方へと向けた。



「悪い子にはお仕置きせな、・・・っちゅーのは建前で、本間は骨折りたいだけやねん、」


ヒヤリ、背中に伝わる汗、それは先程感じた物の比ではなくて、全身の毛穴が反り立つ。

これは、やばい・・・

直感的に感じ取った寒気、体温が一気に下がる感覚、脳内が警報を鳴らすのに身体はいうことをきかない、だって俺はかわらずあの人を見ていた。
スローモーションで流れる時間、カタン、渇いた音を立てて手の中にあった携帯が滑り落ちた。

その時、一瞬だけ時が止まった気がした


「勘忍な、光」














「あ゛あ゛あああ゛あぁあああ゛ああ゛あ゛ぁああぁァア゛アあぁぁああぁああぁぁああぁぁァァアアアぁぁああッッ!!!!」


俺の名前を呼んだあの人は、今までで1番輝いた無邪気な笑顔だった。





REDCOLOR

(それは危険を知らせるサイン)


100207






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