(12/24)
  星空はポケットに





ヒュン。冷たい冷えきった風が街角を奔る。
義務教育の俺達中学生はついこの間、数字の並べられた紙切れと上辺だけを見たほとんど自己満足な業務で並べられた文字の載ったぺらいノートの様な物と、ありったけのプリントを押し付けられて今年の学務に終わりを告げた。
といってもその日から毎日練習メニューのきつくなった部活動が開始される訳だが、もちろん今日も俺は未だ成れない部長としての責務を少し人数が減ったあのコートでいつものように行った。だいぶ、コツのようなものは掴めた。といっても元々の器量が良かったし、先輩らが引退するまでの一週間で徹底的に様々な知識をあの白石部長、否、白石先輩に叩き込まれたのだから事実上対した苦労は無かった。慣れないのは、あの寂れてしまったような景色。あの馬鹿さわぎした面影の残る、あのコート。


(俺も、だいぶ洗脳されとったっちゅーわけか)


はぁ、と赤と白のチェックのマフラーから顔をだして深く溜めていた息を吐き出した。急激な温度差に飽和した水蒸気が白い霧になって澄んだ空に上がって消えた。
頭上にはたくさんのキラキラ、数少なくなってきた街頭と一緒になって夜空の星もキラキラ瞬く、あれ、あんな下の方にも星が。とてもふわふわしたキラキラなお星様が。

「空からおこっちたんすか」
「阿保う。第一志望校、受かったわ」

そういう話とちゃうねんやけど、ていう言葉は飲み込んで、そらおめでとうございますーなんて真上を見ながら演技みたいに棒読みでいってあげたら小突かれた。そんなん、部活の連中が野次馬しとったからもう3時間も前からしっとるわ。聞いたときは本間嬉しくて、嬉しくて涙出る思って、堪えんの大変やったんやぞ、馬鹿謙也さん。今度のデザートは田中屋の黒蜜善哉や。もちろん特大の。この俺に地味な苦労かけんのが悪いねん。


「で、なしてこないなとこに?」
「報告、とまぁ本間は久しぶりに光に逢いたくなってん。」
「そんな大荷物で?」
「今日から家族みんなで海外旅行やねん、泊めてや」
「おいてけぼりっすか」
「やかましわ」


キラキラ音を発てて、クツクツと笑う謙也さん。なんや、お前も相変わらずやなぁなんてオッサン臭いことぬかしよった。いや、実際オッサンになったんや。前よりまた身長の伸びた彼はずっと大人っぽくなった。目を細めて口を薄く開いて笑う謙也さん、レギュラーメンバーといる時とは全然違う。
めちゃくちゃ優しい、そんな笑い方。まぁ無自覚なんやろうけどこんな笑い方するのは安心しきっとる時であって、大人みたいに笑う謙也さんに寂しさを感じるも、そんな笑みを俺にむけてくれるのだと思うと嬉しかったりもした。そんなこといったら、謙也さんの事や。絶対調子乗るからいったらんけど。
一時的に、脱色しきった髪を真っ黒に染めてやったがついこの間見つけたらすっかり元に戻ってて何処か安心したのを覚えている。やっぱりこっちの方が彼らしくて好きや、キラキラ光るお星様みたいな髪。


俺達はどちらともなく肩を並べて歩きだした。
他愛も無い話。なのに最近こんなふうに一緒に並んで帰ることなんて減る一方だったから、懐かしいような、それでも愛おしいと思ってしまうのは盲目といったところか、結局相手が謙也さんだからしゃーないんやな、なんて単純な結果まで何度この思考回路で繰り返し導いてきただろう。
ふと彼に視線だけ向ければぶるり、身震いをして肩を竦めていた。まぁこんな真冬に防寒具の一つも無しに歩いていれば誰だって寒いだろう、俺にはそんな神経持ち合わせてないからこんな寒さでマフラー手袋カイロ無しなんて考えられへんのやけど。


(俺の、せいか)


くるくる、二、三度首に巻いて結んでもなお、膝あたりまで垂れ下がっていたマフラーを外せばキン、と凍るような寒さに一瞬脳が停止したような気がした。アカン、はよせな俺のほうがまいってまう。
若干危機感を感じて、俺は身長差のある彼に少しだけばれないようにつま先をたてて素早く首元に二、三回まくりつけた。
はしたなく先が地面についている反対側のマフラーを拾い上げて今度は自分の首に回す、冷えた首元はまだ寒い。けど隣で赤面している彼を見れば、悪い気はしなかった。


「な、な、なにして・・・っ!!」
「謙也さん、どもりすぎ」
「せやかて!!」
「そんな恰好で出歩くもんやからてっきり期待しとんのかと」
「するかいっ!」
「俺が直々に巻いてあげたんやから感謝してください」
「第一それ俺のマフラーなんやけどぉぉぉ!!」


そうだ、確かにこれは謙也さんのマフラー。引退の時に寒いのが嫌やからなんて子供じみた理由で無期限でかりとるもんや。


「せやけどこれかりとんのは俺やから、今は俺のもんですわ」
「なんやねんそれ!!」


顔を真っ赤にさせて、たぶん寒さのせいだけやない。現にマフラー巻いたときの方がずっと赤いんやから間違いあらへんやろ。
本間、かわええ人やな・・・なんて思いながら、並べられる肩と肩をピットリくっつけてみた。軽く、ほんの、触れるくらい、けどしっかりと。
怒るかな、なんて思ったけど返ってきた言葉は全然想像してへんもんで、俺は柄にもなく笑ってもうた。


「光とおると、あったかくなるなぁ」


(そんな事言うの、謙也さんくらいやで本間)

なんて思う。それでも彼からはっせられた言葉は嬉しくて温かくて、緩む頬が、口元が抑えきれない。なんか、ええな。こういうのもたまには。ニヤリ、謙也さんに隠れてうっすら笑ってみてから。


「謙也さんもあっためてや」
「な・・・っ!!?」
「やっぱ体温高いっすね」


思い切りキンキンに冷えて感覚の無くなった手を素早く謙也さんのポケットに突っ込んだ。カイロを握っていた謙也さんの大きな、大好きな手と触れる。骨張った甲とか細い指とかテニスで出来た豆とか、全部が前と変わらなくて懐かしくて思い切り握り締めてやった。じわりと暖かさが伝わる。
しかし、当の本人は全くの無反応。元々ツッコミ肌の彼だから寒いだのいきなり何するだの何かしら罵声が来ると思っていたんだが・・・チラリ、謙也さんを盗み見る。
あぁ、なるほど。


「何違う事期待しとるんすか」
「ちゃ、ちゃうわ!!してへん!!んな破廉恥な事想像してへんっ!!」
「いやおもいっきりしてますやん」


本間この人かわええな、俺より図体でかい癖に、テニスしてるときとか目茶苦茶かっこええのに、なんでこないかわええんやろ、犯罪級や。顔に出やすいとこも、言葉が出なくて閉まらない口も、そういう思考回路も。まぁこういう事想像できるようになったのは俺のせいなんやろうけど。そんな事まで嬉しくなるからいけない、俺もどんだけこの人に溺れてんねん本間。

「少しは恋人っぽいやろ」
「!」

「謙也さんも期待しとったみたいやし、今夜は寝かせへんから覚悟しといてや」

大好きな彼にの手を取って、否定された言葉は聞かへん。だって握り返してくれたその体温だけで十分やから。
なぁ、これからもずっとそばにおってや。なんて、気持ちを込めて。見上げた空はやっぱりキラキラ輝いていた。


(好きですよ謙也さん)(俺は愛しとる)(!ずっこいわぁ・・・)


星空はポケットに
(星は腕の中に)


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091225






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