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  音に乗せて歌う





謙也さんが、俺ん家に来た。
といってもそれは随分日常に馴染んできとるから別に対して驚くような事でもないんやけど。
毎週休みの日は大体お互いの家の状況とか話してどっちかの家で過ごすのがマンネリ化してきとる。俺ん家にはウザイ兄貴とガキ(この歳で甥がおるとか最悪やわ)がおるし、謙也さん家も親が開業医しとるからごたついとる時はアカンし。
今日はクソ兄貴もガキも義理姉さんと家族仲良く買い物にいっとって両親は共働きやから家には誰もおらん。
だから今日は俺ん家。

いつもみたいにゲームしたり、テニスの雑誌読んだり、他愛も無い話しして会話の途中にボケてみたら直ぐさま謙也さんにツッコミ入れられて二人で笑った。
"自称スピードスター気取っとるだけの事はありますね"、て言ったら"自称やないっちゅーねん!"なんて小さく小突かれた。
目茶苦茶笑顔、そんな謙也さんを見てたら俺も自然と笑みが零れた。そんな平凡やけど俺らにとっては十分幸せな時間を満喫しとった時やった。

「あ、光!これ新作やんな?」

そういって謙也さんは俺のお気に入りのコンポートの上に置いてあった真っ赤なMDを手にとった。つい先日出来たばかりの俺の新曲や。

「あー、それ謙也さんにやろおもて作ったんすわ」
「え、嘘やん」
「本間本間、全部新曲やから気に入るか知らんけど」

うわ、ごっつ阿保面。目見開いて俺直視し過ぎやろ、そういうとこもかわええ。なんて思っとる俺も末期やな。

「・・・本間に、俺にくれんの?」
「いらんのならええすわ」
「いるいるいりますっ!!!」

俺が軽く謙也さんの手にあったMDを掠めると直ぐさま奪われた。今日はえらい自慢のスピードが発揮される日やな。
当の謙也さんは手に戻ったMDを大切そうに両手で包みながら凄くニコニコしとった。でかい図体して中身は小動物か、若干赤く染まった頬と向日葵みたいな笑顔が本当に喜んでくれたんや、と実感できて表にはださんけど素直に嬉しかった。

「光!」
「・・・コンポ、大切に扱こうてくださいよ」
「おんっ!」

毎度の事ながら、謙也さんは俺の新作を一番にその場で聴きたがる。俺としても、自分が作った曲は謙也さんに1番に聴いて貰いたいとは思っとるんやけど・・・。
なんちゅーか、流石に自分の作った曲を恋人に目の前で聴かれると思うと羞恥を感じる訳で。つまりは、めっちゃ恥ずかしい。
それでも謙也さんの好奇心と喜びから来てるのであろう、効果音でいうならワクワクという姿に折れてまうのはそれだけ謙也さんに溺れとる証拠で。

(あー、睡眠時間削って作った甲斐があったわ)

俺は羞恥を紛らわす為に"飲みモン取ってきます"とだけいって部屋を後にした。



「謙也さん、青汁切らしてたんで麦茶でも文句言わんでくだ・・・」

俺が部屋をでた途端流れ出した音楽は青汁探して、麦茶入れ直して善哉探しに冷蔵庫漁っとる間に三曲目の半ばに突入しとった。部屋をガチャリ、慣れた手つきで開けてみれば

「寝るのまでスピードスターとか、勘忍してくださいよ」

俺は持ってきた飲み物を机に置いて、ベットの上ですやすやと寝息を立てる謙也さんの額に小さくキスを落とす。
柔らかい髪を撫でれば、謙也さんはふにゃり、阿保丸だしの顔で笑った


「ゆっくり休んでや、謙也さん」


謙也さんの手の中には、さっかあげたばかりのMDのケースが優しく握られていた。



(なぁ、光。こん前もろた曲なんやけど)(なんすか)(なんでいつもと違って静かな曲やったん?それにオルゴールとかピアノとか今まで使わんかったやん)(あー、それなぁ・・・)(?)(俺の事思いながら寝れるように?)(!)

音に乗せて歌う
(君へのお疲れ様)


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09/12/04 光謙






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