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  マーキングキス





「ゲームセット!!ウォンバイ忍足!6-0!」


コートに審判から彼の勝利宣言。その途端、フェンス越しからキャーッと、この場には似つかわしい甲高い声が響いた。実に不愉快なその雑音に自然と機嫌はダウン、何処からか沸いてくる苛立ちに俺は眉を寄せた。うざい、本間、欝陶しい。既に俺の我慢リミッターは限界まできていた。

「忍足センパイカッコエェわぁー!」
「謙也くーん!」

そんな俺の心境を知るはずもなく、謙也さんのおったコートに1番近い場所から跳びはねたり騒ぎ立てる女子達はコートを囲むフェンスを押し破りそうな勢いや。壊したら弁償しろや、つかはよどっか行け欝陶しいねんボケ!!と謙也さんのファンの奴らに殺気を含めた視線で睨み付けるも、こちらには一向に気付かない。試合前からずっと謙也さんのプレーを見るのに、否、謙也さんを見るのに夢中の様子。ああ、本気でボールぶつけてやりたい。女やろうが、俺は容赦せぇへんぞ。どっかのヘタレスターと違ってこちとら気が短いんやボケ。

そんなうざい歓声を浴びてる張本人は、無事勝利をおさめた試合に満足したのだろう、めちゃめちゃ嬉しそうにこっちへ走ってきた。うわ、阿保面。でもめっちゃかわええ。
いや、待てちゃうやろ・・・アンタ今の試合で洒落にならん位あの狭いコート走りまわっとったやん、何処にまだ走れる体力残ってんねん。

「光っ!今の試合見とった?俺勝ったで!!」
「はぁ・・・」

反応薄っ!なんていいながらも謙也さんはむっちゃ笑顔、疲れなんて全く感じさせない。よく見てみれば謙也さんは汗すらかいてへんかった。部活前とそない変わらん状態、あぁやっぱレギュラーなだけの事はあんねんな、なんて思う。
俺は勝って当たり前っすわ、なんて相変わらず生意気に言いながら(これでも自覚はしてんねん)先程から謙也さんにと持っていたスポーツ飲料を手渡した。そんな俺の対応にも謙也さんは笑ったまま生意気なやっちゃ!!と俺の頭をガシガシと撫で回した。あぁ、折角セットしてきたんにめちゃくちゃや。でも嫌やない、からそんまま素直に撫でられることにした。
一通り撫でることに満足すると、おおきにな、とはにかんだ笑顔で、と目の前でスポーツ飲料を飲み下していった。ええ飲みっぷりで。

本間はええ試合やった。相手はレギュラーではないにしろ、準レギュの中でも断トツ上手い奴で、この前の公式戦でもそれなりに結果を残しとった、っちゅー話を試合前に白石部長がわざわざ俺だけに伝えてきた・・・。(本間あの人うざいわぁ)


外からは相変わらずカンに障る声がとめどなしに聞こえてくる。時折、あの子ずるぃわぁっ!なんて聞こえて来て少し優越感、えぇやろ、このポジションは俺だけのもんや、なんてガキみたいな独占力、俺も相当この人に溺れてんな・・・。


「謙也さん」
「ん?」
「さっきからアンタ見てそこの女子が騒いどりますよ」
「あ、そうなん?」
「そうっすわ、欝陶しくないん・・・?」
「んー試合に集中してたさかい、あんま」

けど確かにみんなの練習の邪魔になりそうやなぁ、そういって謙也さんは少しだけ曇った笑顔を見せた。
あぁ、ムカつく。この人にこんな顔させるなんて・・・ついさっきまで治まってたイライラが急に巻き戻しされる、本間うざい、なんで、なんでアイツ等のせいでこの人が・・・。


「謙也さん・・・」
「ん?どないし・・・・・・んっ!」


ジャージの襟を掴んで勢いよく引き寄せる、謙也さんの目は見開かれたままやったけど俺は構わず降りてきたその唇に噛み付いた。

「な、な・・・ッッ!!!!」
「ごちっすわー」
「おま、何さらしとんねんっ!!」

うっさい、けど謙也さん顔真っ赤やしおこっとってもそれじゃ誘っとるようにしか思えへんのやけど。
とりあえず俺はこの直後に来る大きな叫び声を予測して、その場を勢いよく駆け出した、後ろでは思ったとおり謙也さんが何か叫んどるけどどうせ直ぐに追い掛けて来て、適当に走る俺を直ぐに捕まえるだろう。
そんな事を考えながら、緩む顔を隠しつつも視線をフェンスに移した。
視線の先には、もちろん謙也さんのファンの姿。
悪いけど、こん人俺のやから、そんな意味を込めてニッコリ笑ってやった。


(マーキング・キス)


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精進したい

09/10/21






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