あの円堂が、まさかこんなことを言い出すとは思わなかった。
「ごめん、今日部活休むな」
「…………えっ」
授業もHRも終わった放課後、鞄に教科書を詰め部室へ向かう準備をしている最中、掃除当番だった円堂が掃除を終わらせて俺の元へとことこと歩いてきた。
いつものごとく「早くサッカーやろうぜ!」と急かされると思っていたら円堂が部活を休むなどと予想にもしていなかった言葉を告げるのでその言葉を理解するのにたっぷり30秒もかかってしまった。
あの円堂が、四六時中サッカーのことしか考えていない円堂が…、
「…部活を休む?」
「うん」
「ど、どうしたんだ円堂?熱でもあるのか?」
今日ずっと円堂と一緒に行動していて調子が悪いようには見えなかったが…。
「熱はないんだ!ただちょっと体調が悪いというか…」
そう言うとなぜか少し顔を赤らめて俯いてしまった円堂に、確か今日プールの授業を見学していたな…と思い出した。
「そうか、しんどいなら家まで送るぞ?」
「だ、大丈夫だって!一人で帰れるよ!」
「大好きなサッカーを休むぐらいだ」
おぶってやるよ、と言って円堂の前にしゃがみこむが円堂は「いや、本当に大丈夫だから!」と俺の腕を掴み立ちあがらせようとする。
「なんで遠慮するんだ円堂」
「遠慮というか…いつものことだから大丈夫なんだ!」
「…いつものこと?」
「あっ…」
い、今の忘れて!と慌てる円堂には悪いが俺はさっきの言葉を聞き逃さなかった。
いつものことってなんだ、と問いつめれば円堂は顔をさらに赤くしてぼそっとこう呟いのだ。
「……せ…り…」
「えっ」
「だから生理!いつもなら平気なんだけど今回生理痛酷くて…」
恥ずかしい…と言いながら手で顔を隠す円堂を見て俺はふと思い出した。
そうだ、俺は重要なことを忘れていた。
男勝りでサバサバした性格の我らサッカー部のキャプテン円堂守はれっきとした"女の子"なんだ。
これでプールの授業を見学していた理由も分かった。
「そ、うなのか…すまない」
「いやいいよ気にしなくて。ありがとな心配してくれて」
そう言って優しく微笑んでくれる円堂にもう一度すまないと謝る。
気付かなかったとはいえ女の子の口からあんな言葉を言わせてしまったのだ。最低だ俺。
「やっぱり送る」
「ほんとにいいって。豪炎寺に迷惑かけるし…」
「迷惑なんかじゃない。それにもし帰ってる途中に貧血で倒れたらどうするんだ?」
俺は至って真面目に言ったつもりだったが円堂はくすっとふきだして"豪炎寺心配しすぎ"と笑い始めた。
そんな円堂に俺もつられて笑ってしまう。
「じゃあお言葉に甘えちゃおっかな」
送ってくれる?
と上目遣いでお願いする円堂の可愛さは犯罪級だと思う。
そんな可愛らしい円堂の頭をわしゃわしゃと撫で俺たちは教室を後にした。
香るストロベリーの恋
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恋が始まる予感
2010.11.28