例えば、サッカーにかける情熱だとか。

例えば、オレを見つめる優しい瞳だとか。

例えば、何かに集中すると周りが見えなくなるだとか。







「豪炎寺、聞いてるー?」

「あぁ」


(あっ聞いてない)


円堂の呼びかけが聞こえているのかいないのか、豪炎寺は適当な相づちをうつ。




昨日までの快晴が嘘のように今日はどしゃぶりの雨。
いつも眩しい太陽は黒い大きな雲に隠されている。

こんな雨じゃ練習はできなくて急遽決まった何週間ぶりかのオフ。
何処かに出掛けるなんてこともできなくて久しぶりに来るか?と誘われてやったきた豪炎寺の家は父親も妹の夕香も今日はいないらしく、部屋の中は静かな雨の降る音が大きく聞こえる。



誰もいない恋人の家に二人きりなんてそういう雰囲気になってもいいと、円堂は思っていた。
周りにいくら鈍感と言われていても恋人の家に来ればドキドキだったするし期待だってする。



なのにこの部屋の主とくれば。




(…さっきから何読んでるんだろう)



鋭い綺麗な瞳が左右に動き角ばった男らしい指が次のページをめくる。
円堂が豪炎寺の部屋にやってきてから豪炎寺はなにやら難しそうな辞書ほどの厚さがある本を読んでいた。



円堂を部屋に招きいれお茶菓子を出すと適当にくつろいでくれ、の一言以来豪炎寺はずっと目の前の本に夢中だ。



別に恋人の部屋にきたからと言って二人で戯れなければいけないなんて決まりはないけれど自分がいるのになんで本なんか読んでいるんだと、円堂はつまらなそうに唇を尖らせた。






豪炎寺は何かに集中すると周りが見えなくなる。

それはサッカーに対しても日常生活においても同じで、今回のように朝から読み続けていた本を気付いたら真夜中まで読んでいたりするのは当たり前らしい。
本を読んでいる最中に言われてことはほとんど覚えていない。


そんなところも含めて豪炎寺が好きででもやっぱり構ってもらえないのは寂しいと感じる。



なんだよオレより本の方が大事か、なんて女々しいことを考えたりもして。


豪炎寺が集中しているのを邪魔したいわけではないけど先ほどから後ろから抱きついて甘えた声を出してみても髪をいじってみても反応は全くない。



せっかくの久しぶりにゆっくりと二人で過ごせる時間を本なんかに邪魔されたくない。
でも豪炎寺は恋人の自分より目の前の本に夢中で。



何をしても無駄ならもう拗ねるしかない。






(ふて寝してやる。)




「豪炎寺のばーか」

「ばかってなんだよ」


寝る前に悪態付いてやろうと呟いて豪炎寺のベットにもぐりこんだ瞬間、毛布は取り上げられ指が伸びてきたかと思えば額を小突かれた。



「…豪炎寺」

「ごめんな円堂」



優しく力強い瞳が円堂をまっすぐ見つめる。
そんな豪炎寺を円堂もまっすぐ見つめ返す。


「この本、借り物だからな。早く読んで返そうと思ってたんだが…でもそんなこと後にすればよかったな」


ぱたっと読んでいた本を閉じるとスッと手を広げる。そして一言。


「おいで円堂」


円堂にしか見せない酷く優しく穏やかな表情で甘やかすみたいに自分を呼んでくるから。
そんな表情で、声で、呼ばれてしまえばさっきまでのモヤモヤと寂しさが吹き飛んでそれが嬉しさに代わっていく。
我ながら現金だとは思うけど、でも。




「…っ…豪炎寺のばか!!!」



ぎゅっと飛び付くみたいに抱きついて甘えるように首筋に顔を埋める。
そうすれば豪炎寺はぎゅうっと力強く抱きしめ返してくれる。
そうして円堂の髪にそっと口づけて



「好きだ」




そう囁いてくれるから。




(オレだって)




「大好きだばーか!!!」




勢いよく顔をあげて豪炎寺に顔を近付ける。
しばらくすればちゅっと可愛らしいリップ音が響いて円堂は甘い吐息を漏らした。






好き好きダーリン!








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豪円ちゃーん




2012.3.2


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