昔からクリスマスを盛大に祝ったことがなかった。
父さんや母さんが生きていた頃は祝っていたのかもしれないが全く記憶にないし施設に入ってからもケーキを食べたくらいで祝ったことがなくて。
鬼道家に引き取られた頃も義父は何かと忙しい人なので一緒に祝った覚えもない。(プレゼントはこれでもか、というほど貰ったが)
この年になってクリスマスを盛大に祝いたいなんて思わないけど普通の家族のようにクリスマスを祝ってみたい、楽しみたいという願望がないわけじゃない。
だから風丸が今日外に連れ出してくれたのは正直嬉しかったんだ。
「風丸、どこへ行くんだ?」
「そうだな…鬼道は何処に行きたい?」
「…質問を質問で返すな」
所々にイルミネーションが施されている街をお互いの手をしっかり握って歩いていく。
普段なら周りの目とか恥ずかしさとか自分のプライドが邪魔をして外で手を繋ぐなんて絶対ありえないけど今日は特別だ。
「じゃあプレゼント買いにいこうか?何が欲しい鬼道?」
「プレゼントは別にいらない。お金がかかってしまう」
「そんなこと気にするなよ、今日はクリスマスなんだから」
でも、と言葉を濁す俺に「これぐらいさせてくれ」と風丸は軽く笑った。
「…ではその言葉に甘えておく」
そう言えば風丸は優しく微笑んで俺に向けていた目線を前に戻す。
そこからしばらく無言が続いた。
もともと俺も風丸も喋るのが得意な方ではないから会話が途切れやすい。
でも居心地が悪いなどと思ったことは一度もない。
何を買ってもらおうか、と考えているとふいに風丸が「鬼道」と俺の名前を呼んできた。
「どうした?」
「…呼んでみただけ」
「なんだそれは」
マフラーで隠している口元が緩むのが分かった。
こんな些細なやり取りも幸せに感じる俺は相当重症だと思う。
なんとなく前に向けていた視線を風丸に向けてみると思わず言葉を失ってしまった。
だって、
「っ…!」
見つめた横顔がとても綺麗でかっこよくて。
心臓がやけにうるさい。
顔が熱い。
なんでコイツはこんなにも、
「かっこいいいんだ…」
「ん?何か言ったか鬼道?」
あんな台詞を無意識に言ってしまったのが恥ずかしくて「別に」と答え赤くなっているのを隠すため巻いているマフラーをさらにぐいっと持ち上げる。
風丸だけずるい。
俺ばかりこんなにもドキドキして。
風丸がいつもよりかっこよく見えるのも俺がいつもより素直なのもきっとこのイルミネーションと雰囲気のせいだ。
メリーメリークリスマス!
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風鬼でメリークリスマス!
2010.12.25