※山崎と沖田と土方




 市中の見回りを始めて10分ほど経った頃の事だ。ほんの少し目を離した隙に沖田と山崎が姿を消し、土方は炎天の下、二人の姿を探す羽目となった。偶然出くわした坂田一行が大通りで見掛けたと言うので出てみれば、ようやく見付けた二人が茶屋の縁台でかき氷をつついている。暑さも相俟り、苛立った土方の額には青筋が立った。

「……オイ、こんなところで何やってんだテメェら」
「かき氷食ってるに決まってまさァ」

 言った先から沖田がコーラ味の氷をスプーンに乗る限り掬い上げ、山崎の口元に運ぶ。躊躇う事もなく口内に受け入れた山崎が冷たさに両眼を細めると、美味しいです、と沖田に向けて素直な感想を零した。

「……で? 土方さんこそ何やってるんでィ、勤務中に」
「勤務中はお前らも同じだろうが!」

 飄々とした沖田とは裏腹に、土方はいよいよ爆発寸前だ。すると一部始終を眺めていた山崎は気が気でなくなり、二人の間に割って入ると、怒り心頭の土方に自らのかき氷を差し出した。

「なんだよ」
「いや、ほら、暑いでしょ。だから副長もどうかなァ、なんて」
「…………」

 目の前に突き出された無色のかき氷を見据え、土方が訝しげに眉を寄せた矢先、表情からその意図を察したように山崎が付言する。

「言っておきますが甘露ですよ。さすがに甘味処に来てまで味のない氷は食いません」

 ステンレスのスプーンで氷を一掬いし、先程沖田がそうしたように口元まで運んでやれば、一度は渋ってみせた土方も観念したのかそれを迎え入れた。へらりと笑う山崎を前に黙り込んだ土方は、恐らく少しばかり冷静になったのだろう。

「帰りに水饅頭でも買って帰りましょうね、局長に。きっと喜びますよ」
「山崎、俺の分も頼んだぜィ」
「まだ食うのかテメェは」

 それからしばらく沖田と土方の言い合いは続いたが、山崎の提案通りに水饅頭を近藤のために2つ、それから沖田用に2つ購入して帰路についた。三人からの土産を前に笑顔を洩らす近藤の顔を見て、こんな日も悪くないのかもしれない、と土方は思うのだった。




/ある夏の日の話