※山崎と沖田




「お前、いつもブラックだったっけ」

路上にとめたパトカーに背中を寄りかけて、手にした缶のプルタブに指を伸ばしながら沖田さんが零す。そして俺が顔を上げたそのすぐ後に、プシュ、とスチールの小気味の良い音が響いた。

 ――ああ、そう言われてみれば。どちらかと言うと俺の幼稚な舌は、こんな苦味なんて好まなかったはずだ。いつからだろう、こんなにも苦いものを平気で飲むようになったのは。思い当たる節が無い訳じゃない。けど。

「似合いませんかね」
「物凄く」

 炭酸飲料の缶を傾ける沖田さんをじっと見て、そして自分の手に収まるそれへと視線を移す。眺めている内になんだか憎たらしくなって軽く揺らした黒塗りの缶は、内側で液体をぐるりと回して俺に重みを伝えてみせた。

「……副長って、」
「は?」
「ブラックしか飲みませんよね」
「それが何でィ」

 くい、と缶の底を持ち上げると、添えた唇から口内へと流れ込むコーヒーはやはり苦くて、俺は正直美味いとも思えない。なのに何故こんなにもこの味が恋しくなるのか。

「いや、何でもないです」

 恐らく、きっと、絶対、あの人の所為だと分かってはいるけど。




/認めたくない