※セフレ土→山
※性描写有り




 俺の自室で一通りの任務報告を終え、抵抗のひとつも見せずに抱き寄せられた山崎は接吻を拒んだ。顎を軽く掬い上げた矢先にその空気を感じ取ったのだろう、理解に困る事のない一言だった。そんな恋人みたいな事せんで下さいよ、と。

 ふと捉えた山崎の表情は至って普段と変わらぬそれで、否応なしにその言葉が冗談ではないのだと思い知る羽目になる。――なるほど、コイツにとって、俺との関係はただの遊びに過ぎないという事か。

「ねえ副長、早く」

 そのくせに山崎は俺の首にするりと腕を絡めて、先の行為をねだる。耳元に寄せた唇で更に俺を呼び情欲を煽らんとする猫なで声を響かせて、……そこまで意図を分かっていながらも素直に背筋を粟立ててしまう自分が情けない。

 衣服を丁寧に剥きながら首元に顔を埋めて、幾度かに分けながら薄い皮膚を吸い上げると、頭上で零れる吐息は確かに甘さを含み始める。刺激を与えるように立てた歯に、山崎の身体は小さく震えて喜んでみせた。

「ん、ン……っふく、ちょう」

 舌で素肌を辿って乳首に吸い付いて、その度に山崎は俺を呼ぶ。

 しかしどれほどの愛撫を施したところで本当に聞きたいそれが紡がれる事はなく、なまめかしい嬌声に反応して勃ち上がる単純な性器とは裏腹に、心の内ではただただ虚しさと苛立ちを覚えるだけだった。




「――ひ、ッ……んん」

 ぐ、と宛がった先に重心を乗せて身体を割り開く。丹念に慣らしたお陰でそこは難なく熱を迎え、いつものように心地の好い締め付けを与えてくれた。その間も俯せの山崎はシーツを握り締めて、もっと、とねだるように腰を揺する。

「山崎」
「う、あ……ッなに、……あっ」
「……何でもねェ」

 名前を、なんて。そんな事にいつまでも固執している自分が妙に馬鹿馬鹿しく思えて零した小さな自嘲は、突き上げる度に室内にこだまする山崎の甘い声に掻き消されていった。

「あ、そこ、……やっ、だめ」
「……好きなくせに」
「んんっ、ぅ……ああッ、あ……っ」
「ほら、素直になれよ」

 腰を押し付けてぐりぐりと内部を掻き回しながら上肢を折り、無防備なうなじに口付けをひとつ落とす。強い刺激にきゅう、と締まりが増したその時に、音が立つ程に肌を吸い上げて鬱血痕を残した。あからさま過ぎたかと一度は心配を巡らせたが、快感に夢中な山崎には勘付かれなかったらしい。

「ひ、あっ……ごめ、なさ……、すき、っ……好き、です」

 途端に跳ねた心臓と、主語を勘違いしてしまいそうになった自らの思考に舌を打ち、抜けてしまう直前まで引いた腰を奥まで打ち付ける。

 さらりと流れる黒髪の隙間から覗いた襟首の赤み。先程こっそりと刻んだそれを指の腹でなぞり、快感を和らげるように細く長く息を吐いた。

「……俺も好きだぜ」

 お前の身体が、と付け足したのは逃げの姿勢の表れだとばかり思っていたのだが、冷静考えてみれば、むしろそうであって欲しいという願望だったのかもしれない。……どちらにせよ自分の本心など知りたくはなかった。まだ知らないふりをしていたいのだ。

「ん、ぁあッは……も、むり、っン……ひ、あっあ……!」

 上擦った声でもう限界だと訴えるので浅い箇所の痼を何度も擦ってやると、山崎は呆気無く果ててしまう。それに伴う圧迫に引きずられるように限界を迎える直前、中に出してしまう事を避けるために体内に収めていたモノを引き抜くと、山崎の小さな臀部は俺の放った体液により白く汚れた。

 ゆっくりと素肌を伝い布団へと垂れていく様子に視線を奪われていた最中(さなか)、伏せていた身体はおもむろに起き上がり、そして腕がこちらに伸ばされる。何だろうかと油断をした隙に肩にぐっと力をかけられ、俺の視界は反転した。

「副長、もう一回」

 媚びるように山崎が囁く。腰に跨がる身体に触れて太腿を撫でてやれば、それを了承と受け取った山崎はにこりと笑った。

 いつか『身体だけではなく全てが愛しい』と告げたら、この男は俺から離れていってしまうだろうか。もし『枕を交わす晩には名前を呼んで聞かせくれ』と頼んだら、素直に呼んでくれるだろうか。

 口に出来るはずもない想いを気の迷いだと今日も言い聞かせ、その日は三度、山崎を抱いた。




/君の気持ちなど読めないので