※3Z
※土方が山崎に片想い




 確かに悩んだ末の結論だった。少なくとも普通ではないと理解をしていたし、気持ち悪がられる可能性も考えなかった訳ではない。ただ、どうにも身近な人物に隠し事を続けられる性分ではなかったのだ。
だから金曜日の放課後、人気の無い非常階段の踊り場に同級生を呼び出して端的にこの気持ちを伝えた。

「お前の事が好きだ」

 そもそも恋愛そのものが柄じゃない事は重々承知だった。案の定目の前の相手は呆気に取られた表情を浮かべている。ああ、流石に早まった行動だったか。そんな事を考えたって今更もう遅い。妙にいたたまれない空気の中、ようやく開いたその唇が紡いだ言葉はこれまた予想通りのもので。

「……俺、男なんですけど」

 そんな事ァ分かってる。分かってるからこそ幾らか悩みもしたんだが、あんまり必死になって、俺がコイツ相手に焦がれてたと伝えてしまうのもなんだか癪な気がして言葉を飲んだ。代わりに封筒を男の前に突き付ける。

「何ですか、これ」
「映画のチケット」
「なんで?」
「お前が観てェって言ってたヤツ」
「……俺の質問ちゃんと聞いてます?」

 まったく、アンタって人は。そう言いたげな表情を浮かべる相手を見て、俺は少し安心した。それがいつも通りの見慣れた顔だったからだ。

「じゃあ明日の10時、駅前でな」

 それだけ告げてその場を去る。急に翌日へ捻じ込まれた予定に抗う声が背中越しに聞こえたが、押し問答も面倒なので聞こえていないふりをした。――いや、正直に言えば断られてしまうかもしれないと考えると、少しだけ返事を聞くのが怖かったのだ。

 そして、聞かずにその場を後にしたのは正解だったと思う。拒否の言葉を受けるという最悪の事態は免れたというのに、その晩は微塵も眠気が訪れる様子が無かったからだ。俺という人間はこんなにもデリケートだったか、なんて自嘲を零している内に朝陽は昇っていた。

「……準備、しねェと」

 約束の時間にはまだ随分と早い。だけどじっとしてもいられない。ベッドから身体を起こして傍のカーテンを開くと、空は正に快晴という言葉がよく似合う清々しい表情をしていた。

 果たしてあの野郎はどんな顔をして待ち合わせの場所にやって来るのだろうか。もしかしたら来ないかもしれない、という心配は不思議と浮かばなかった。俺が来いとだけ残して去ったからには何があっても絶対に来る。あの男、山崎退とはそんな奴だ。

 窓を開けたら心地の好い風が舞い込み、優しく頬を撫でて部屋へと流れていく。今日、これからの事を思うと表情は自然と綻んだ。




/問題なんて二の次だ