愛は惜しみなく与う
シリーズものの集まり




それは、数年前の出来事だっただろうか

そのときの俺は、自分のことになど興味は無かった
未来が見えたとしても、自分には未来を変える力などないと…
最初から諦めて、それでいいのだと思い、満足して生きていた
そして俺が見た未来の世界は現実となる
そんな中を歩んでゆく毎日

他人に喧嘩を吹っかけ、喧嘩には勝った
けれど満足できない何かが残る

俺は何がしたいんだ?

「何がしたいの?」

どきりとした
俺の思考をそのまま音で聞いたからだ
顔を上げて声の主を見つめると、俺と歳の近いようにみえる女の子

「何がしたいの?」

「どういう意味だよ」

「それのこと」

真っ直ぐ伸びる彼女の指を辿ると、そこには俺が喧嘩時に負った怪我

「これがどうした?」

「貴方は何故喧嘩をするの?」

知らない、初対面の人間。
それにこんなに図々しい人間。

けれど彼女の瞳には俺を引き寄せる何かを持っていて、知らず知らずのうちに俺の心は開きかかっていることに気づく。

だからなのか…俺はすらすらと言葉を並べていく

「俺は、自暴自棄になってんのかもしれない。こんなこと初対面のお前に言うのは可笑しいけど、俺はさ…ゆく先の話が見える。だが、未来は変えられない自分に嫌悪する。なんで喧嘩すんのかは分かんねぇけど、人に当たってこの感情を押し殺そうとしてるんだろうな」


「つまりさ、貴方は馬鹿でしょ。未来が見える?未来が変えられない?未来が見えることは確かに凄いこと。でもね、その能力をを活かすことは貴方ならできる。未来は変えられるんだよ?見たことだけが事実とは限らない。幾らでも道はあるんだからさ、自身の行動自体で未来は変えられる…私がそうであったように」


「私が…?どういう意味だ」

「きっといつか分かるよ。不知火一樹くん」


それが最初の出会いだった
彼女が最後に残した言葉の意味
それが分かるのは数年後…


―そして今―


「か〜ず〜き」

「ん?…あれ?俺、寝てたか?」

「寝てたよ、疲れたんでしょ?最近働きすぎ。私の心配も考えて」

「ああ」

「曖昧な返事だなぁ」


くすくすと微笑する彼女の横顔が堪らなく可愛いと思っちまった
彼女を抱きしめたい、キスしたい
そんな欲求の赴くままに彼女に手を伸ばした

俺を見つけたのは彼女だった
俺を救ったのは彼女だった

だからこそ、これからの彼女の未来は俺が絶対に幸せにしてやる

愛してる、何よりも、誰よりも…

ただそれだけを伝えたくて、
伝えきれないから、

これから先、ずっと傍に居てやる




【初めて救われた】





▼starry☆sky/不知火一樹








- ナノ -