愛は惜しみなく与う
シリーズものの集まり






アンタの笑った顔が最高に可愛いと思ってた

にこにこと子供みたいに無邪気に笑うその横顔に、
俺様がどれだけ癒され、助けられたことか知れない
忍である俺に、人並みの幸せとこの溢れんばかりの愛という感情を教えてくれた
誰よりも愛しいアンタの笑顔が好きだった

アンタの怒った顔が最高に可愛いと思ってた

俺が傷ついて帰ると、目に涙を溜めて悲しそうに怒る
なんとも痛みを感じぬかすり傷なんかを本気で気にかける彼女が愛しい
抱きしめて、接吻をして、離さないと投げかける
それに対して嬉しいように怒り出す彼女が可愛いと思うのは仕方がなかった

アンタの笑った顔も、怒った顔も、子供みたいに無邪気な顔も、寂しそうな顔も、不安げな顔も、泣いた顔も…全部全部を愛しく思っていた

アンタが今、俺の為に流す涙はなんて綺麗なんだろうと強く思う

けれど、もう…

伸ばそうとしても、触れようとしても

もう、この手はアンタの頬に触れることさえできないのだと

今、やっと気づいた

アンタの涙をこの手で拭うことができない

手を伸ばしてみる
けれど、その手はアンタの体をすり抜けるだけ
抱きしめようとしてみる
けれど俺の腕は空を抱くだけ

俺はもう、アンタの涙を拭うことも
抱きしめることも、口付けすることも、愛を囁くことすらできはしない

そう、思考する間にも彼女の涙は絶え間なく溢れ続ける

もう、いいんだ

アンタに、こんなになるまで愛されて…
俺様は幸せだった。満たされていた。
何よりもアンタに愛されて、俺は幸せだったんだ

だから、泣かないでよ。傷つかないでよ


昔、アンタが俺の名前を一言「佐助」と、そう恥ずかしそうに呼んだとき
俺の心はそれだけで満たされた
アンタが居るなら、もう何もいらないって本気で思った

昔、アンタが俺のことを探して、俺の声を何度も何度も呼び続けていたとき
それがとても心地よくって、嬉しくて…
アンタには悪いけど、少しの間隠れてたんだ

必死に何度も呼ぶアンタが何よりも大切だって思った
絶対に守り抜く、そして幸せにすると誓った

だが今、俺はもうアンタを守り抜くことも、幸せにすることもできそうにない


俺は幸せだった
俺は満たされてた

アンタを愛せて、アンタに愛されて

それだけでいいと思えた

アンタを愛せて幸せだった

もし、もう一度アンタに触れれるなら、どんなにいいのだろう
失敗を無いものにできたら、どんなにいいのだろう


抱きしめたい、口付けたい、愛してると…そう一言言いたい

アンタを幸せにできるのは俺様だけだって思ってたのに、
どうしてこうも上手くいかない


俺はアンタを守りたかっただけなのに、
俺はアンタと生きたかっただけなのに、


【俺はアンタを心底愛してた】


泣くな、泣くな、泣くな

俺の為に流される涙なのに、心が壊れそうになるのは何故だろう

愛してる

もう一度、アンタに俺は会いたいよ…


(佐助っ…)


もう触れられない君に、何をしてあげれるんだろうか
そう考えても無駄なことに、俺はまだ気づかない













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