愛は惜しみなく与う
あい×あい×あい




息を吐けば白い吐息が目に見える
そんな時期が今年もやってきて、近年はまた一段と寒いと感じるようになった気がする
「私も老けたかな?」
そう半兵衛に呟くと苦笑されたことを今も覚えている
たしかそのときは、
みんな同じように寒いと感じてるから、
椿が特別、老けてなんかいないよと諭すようにそういわれた
まぁでも、こんな前のことを振り返って考えることができるぐらい今日は時間が空いていた

いつもは愛用バイクの「アサギ」で運び屋をしている
運び屋といったら怪しいかもしれないけれど、
でも法に触れるようなものは一切運ばないことにしている
仕事の速さと的確さが売りで、その社訓から私の職業もなかなか安定した収入を得ることができる
まぁそんな仕事も今日は半兵衛に休みを入れられてしまった


「椿、久々の休みはどうだい?」

「半兵衛…半兵衛が休みを入れなければ私は今日も仕事に励んでたよ」

「君は働きすぎだよ。たまには息抜きもしないと」


そういって、私愛用のマグカップを手渡してくる半兵衛
中身はあたたかいコーヒーで、
縁側に腰を掛けながらコーヒーを口に含む

半兵衛の作るコーヒーは美味しい
三成の作るご飯も美味しいけれど、コーヒーに限っては半兵衛が淹れる独特の風味が好きだったりする

両手でマグカップを持ちながら半兵衛に隣の場所を勧めた


「じゃあ、遠慮なく失礼しようかな」

「ああ」


半兵衛の隣は楽だ
飾ることのない自分で居られる
そして、何よりあたたかい
この隣の場所という距離感が安心できて、安定できる。
これで、私のもうひとつの隣に三成が居たらもっといいのだけれど、今はこれで我慢しよう


「半兵衛」

「ん?なんだい?」

「体の調子はもう大丈夫なのか?」

「ああ、もう心配ないって健史さんも言っていたよ。君に出会えたおかげだね」

「私の力じゃないよ。あれで父も医療に関しては腕がいいから」

「ふふっ…自慢の父上なんだろ?」


そういわれると少しこそばゆい感じがするが、
でもまぁ、父のことは尊敬しているしあれで私のことを大切に思ってくれている
そう考えたら胸がほっとあたたかくなった気がする


「まぁ、感謝はしいてる。半兵衛とこうして元気で居られるのは父のおかげでもあるし、今は半兵衛や三成、それにたくさん大切な人ができたから生まれてこれたことにも感謝してるよ」

「じゃあ僕も感謝しないとね。こうして元気で居られること、君に出会えたこと、感謝してもしきれないよ」


その後も半兵衛とは他愛もない話を続ける
最初は仕事に行けないことについてもやもやしていたが、
でも今はたまにの休みに感謝してる自分が居る


「椿様っ」

「三成」

「三成君」


三成の声に私と半兵衛が振り返り、そして三人が三人さまざまな反応を見せる
三成はなんだか目を輝かせて、
半兵衛は少し気を落としたような表情を見せて、
そんな二人を見て私は、それぞれ感謝を述べる

気付けばいつも傍らにいて、私を支えてくれるこの2人
何をすればこの恩を返していけるのだろうか?
どうすれば皆を喜ばせることができるのだろうか?

それが分からないから、とにかく私は生きたいと思う
一緒に居ることがこの2人に対する恩返しなら傍に居たい
私が笑うことで彼らも笑ってくれるなら私も笑っていたい

どんなときもこのかけがえのない大切な人たちとともに在れる幸せを、

束の間の休息にふと思う



気付けばいつも傍らに



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タイトル/瞑目さま
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