愛は惜しみなく与う
あい×あい×あい




「椿〜っ会いたかったぞぉ」

「親父殿、親父殿、もうそろそろ放していただけないか?」


久しぶりに会った父は、
なんというか少しだけ否、大分?
親馬鹿ぶりが酷くなっていたように思う

今日は久しぶりに仕事へと向かっていた
海に近い町にある魚屋の元親のところへと届け物をしつつ、
今日はのんびりと2人で過ごす1日を送っていた
久々に会った元親は前より少し男前になっていて、
少し自慢げに私を見つめていた
思えば一番最初に会ったときの彼は、
彼女と言ってもいいような容姿で、思わず女の子なのかと目を疑った
しかし、今はどこからどう見ても、
海の男としか思えないから不思議なところだ


「元親は今、漁師とこの魚屋で兼業してるんだよな」

「ああ、それなりにやってるぜ」

「大変だろ?」

「まぁ、大変だが仲間も居るしな」

「そうか」


そんな会話をしている間にも部屋の扉の前では、
きっと元親が言う仲間とやらが覗き込んで居て、
アニキ、ファイトーなどと小声で叫んでいて
そんな様子を見ても、
この目の前に居る彼が今充実した生活を遅れているのだと安心した


「まぁ元気そうでよかった」

「ああ、今日は会えて嬉しかったぜ。また、来て…くれるよな?」


あー…
なんでこう、たまに可愛い姿を見せるかな
来て…くれるよな?で首を傾げるな
たとえ男らしい容姿をしていても、
顔付きがいいこいつがそんな姿を見せるの姿に私は弱い
こいつはそんな計算ができるわけじゃないし、
元からの染み付いた行為なんだろうが、少しだけドキッとしてしまった


「また今日みたいな仕事がなくても来るよ」

「約束な、あ…あとたまには元就にも会ってやってくれ。
あいつお前に会いたくてうずうずしてんぜ。
自分で会いに行く勇気は無いくせに俺に当たるんだよ」


ニカッという効果音が付きそうなほどの笑顔を見せる元親
分かったと返事をしてバイクに乗り込み家へと向かった私だが
そんな帰りに彼に会ったのだ


「椿、久しぶりだなぁ」

「親父殿、貴方も元気そうでよかった」

「最近会えなくて寂しかったんだぜ?」


少しだけ目を潤ませて暗い表情を見せる父に胸にグッと来るものがあって
私はどうしたらいいか分からなくなり、
おろおろしていると、
父の大きくごつごつした手のひらで頭をがしがしと撫でられる
久しぶりに感じた父のぬくもり
それがとてつもなく嬉しく
人目も憚らず静かに泣いた

傍に居なくても不自由はなかった
けれど、このぬくもりは傍に居ないと感じれないもので
彼のあたたかさが私には嬉しいものだった


「親父殿…」

「…俺の為に泣いてくれるのは嬉しいが、俺はお前の笑った顔のほうが好きだ
笑ってくれよ。愛娘の笑顔以上に嬉しいものはないもんだぜ」


元親とどこか似たような、でも少し違う笑みを浮かべる父

そんな父の言葉に苦笑すると
父も笑ってまた、がしがしと私の頭を撫でた


「親父殿、今日の診察は?」

「ああ、もう終わったさ。丁度今から椿の家に行こうと思ってたんだ」

「本当に丁度よかったんだな、では行こうか」

「ああ」


仕事では元親との久しぶりの再会
帰宅途中は父との久しぶりの再会

今日は本当に充実した1日であったと言えるだろう

半兵衛や三成に感じるそれとは違う感情を抱きながら、
私達2人は家へと急いだ


(おかえり椿…と、健史さんも来ていたんですね)
(ああ、たまたま会ってな)
(お前らいつも玄関でこんな甘い会話をしているのか?こんな新婚夫婦のような会話を)
(勘違いしないでくれ、そんな会話はしていない。普通の会話だ)

(問答無用っ)


暴れだす父を見て見ぬ振りをして、
三成と私は食事の支度を進める


(椿、君は僕を見捨てたね)
(悪い、ああなると親父殿は私でも止められん)


「んっ…椿」

「この酔っ払いが」


床で横になる親父殿の髪を梳き、
彼が気持ちよさそうに眠りについているのを確認して
満たされる気持ちでいる私の姿を、
半兵衛と三成がこっそり見つめていたのは私にも分からなかった



平凡な日常に久々の再会を



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