愛は惜しみなく与う
あい×あい×あい




「椿様、この手は?」

「これか?寒いだろ?手袋も持ってきてないし、駄目だったか?」


私の手をそっと握る椿様に、
私は一瞬、
自身の繋ぎたいという思いが伝わってしまったのかと思ったのだが、
どうやらそうではないようで安心した

彼女の手は冷たい
それは女性だからなのだろうか
でもそれが私を心配させる

こんなに冷たい手を持つ彼女が心配でならない
確かに横で笑う彼女が在るのに、それでも不安になってしまうのだ
彼女のことになると私は気が気ではなくなってしまう
狂いそうだ
私は少しでも、
私の手のあたたかさが彼女に伝わればと願いを込めつつ
彼女の手をそっと握り返した


「三成の手はあたたかいな」

「椿様が冷たいんですよ」

「ははっ、そうだな。女は冷え性が多いからな」

「ではこれからは私の手を使ってください。寒いならいつでも私が椿様と風を遮る壁になりますから」


自然と口が発していた
そんな私を見て、
彼女が笑みを浮かべながら、そして遠慮がちに言う


「三成も、そして半兵衛も…本当に馬鹿だよなぁ。私なんかにそんなに尽くしてくれなくてもいいものを」


そうではない
私は一緒に居たいから、椿様と一緒に居る
彼女の傍を離れることは私にとって精神の死と同じこと
何事も、
彼女だからしたいと思うのだ
彼女の傍に居たい
彼女の為に何かしたい
それだけなのだ

全ては自身の勝手な判断で行っていること
それを椿様は分かっていない

私がしたいから、私が傍に居たいから

ただそれだけ


「椿様」

「ん?」

「私はただ、貴女の傍に居たいのです。今までもそれだけを思っていました。
そしてこれからも…
こんな私ですが、これからも傍に置いてください」


「……三成、置くとか置かないとか、そういうことじゃないんだ
私は三成、そして半兵衛と一緒に居たいから一緒に居るんだ
どちらかが置くとか置かないとか、そういう上下の関係じゃないだろ?私たちは
三成が傍に居たい思うなら一緒に居ればいい、私も同じように思っているよ」


対等な関係がいいよ、私は
そんなこと、私には誰も言わない
この人だけだ
こんな貴女だから私は一緒に居たいと心から願うのかもしれない


「椿、三成君」

「半兵衛っ」

「…半兵衛様」


もう少しだけ2人だけで居たいという気持ちもあったのだが、
横に居る彼女が嬉しそうにしているから
だから私もなんだか気が抜けてしまった


「椿、出かけるなんて言ってなかったから心配で出てきてしまったよ」

「悪かった、三成一人ではこの荷物は持てないと思って」


彼女が自身で持っていたスーパーの袋を持ち上げて見せた
半兵衛様は溜息をひとつ吐いて彼女が持っていた袋を奪う


「僕が持つよ」

「否、私が持つよ」

「じゃあ、その代わりに僕とも手を繋いでくれるかい?」

「あーまぁ、そんなことでよければ」


私は少しむっとして半兵衛様を睨むと
少し得意げな表情で私を見る半兵衛様
そして彼の彼女を見つめる目は、
何か愛しいものを見つめるような目だった
きっと私も彼女を見つめるときはそんな目をしているのだろう

スーパーからの帰り道は、
半兵衛様が左手にスーパーの袋
そして右手は椿様の左手としっかりと繋がれていて、
私のほうも右手にスーパーの袋
そして左手は椿様の右手としっかり繋ぎ

彼と彼女と私とで手を繋ぎながら帰った


今はこれでいい
進展も無く後退もないこの関係だが、
それでも彼女と在れるのならば、
今はそれでいいのだと思った



彼と彼女と私の日常



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