愛は惜しみなく与う
あい×あい×あい





久しぶりに彼女を訪ねた
女ながらに男の人よりも強い彼女
どんな人間よりも優しく強い
そんな彼女に昔から憧れていた
そんな彼女の隣に一時でも長く一緒にいたいと思ったし、
でも私には一緒に居るだけで精一杯で、
彼女の周りには彼女に魅せられた人間で溢れてきた

格好悪い嫉妬だってことは分かってる
でも私はなんだか親しい姉がみんなに盗られたようで嫌だった

でも貴女が笑ってたから、それでもいいやと思ってしまったの
泣いていたのなら無理やりにでも彼女と居るつもりだったけど、
でも彼女は私と居るときより笑顔を見せていて
悔しいけど、でも彼女の居る場所はあそこなんだと正直心から思ってしまった


「椿」

「どうした?ねねじゃないか」

「用がないと来ちゃいけないの?酷いわ」

「そうじゃないんだ、よく来てくれたな」


私が泣いた振りをしてみると、純粋な彼女は騙されておろおろしてる
そんな彼女に少しだけ罪悪感を抱えつつも
でも今だけは彼女は私を見てくれている
それだけで私は生きてゆけるの


「そうだ、お茶を煎れるから私の部屋に入るか?」

「いいの?」

「ああ、ねねなら歓迎だ」


その笑顔でどれだけの人がこんな気持ちにさせられるんだろう
みんなにみんな優しいから、こんなにたくさんの人を惹きつけてやまないのだ


「やぁ、ねね殿」

「こんにちは、半兵衛さん。お邪魔しますわ」

「ああ、半兵衛。私はねねにお茶を煎れるから彼女の相手になってやってくれ」

「分かった」


彼女が台所に向かうとどういうわけか半兵衛さんと一対一になって部屋に取り残された
私は半兵衛さんとはなかなか話さないし、話す機会も無かった
初めて彼を見たのは小学校5年生になってから
そのときにひょっこり彼女の前へ現れた彼
どこでどうやって彼女についてきたのかも知らないし、
どんな人なのかもおおよそのことしか知らない
でも、しっかり分かることはこの人は彼女を本当に大切に思っている

それが敬慕の感情なのか、恋慕の感情なのか
それとも両方なのか
たぶん、きっと両方なのだろう

彼女に出会ったのは私のほうが先だった
ずっとずっと彼女と一緒に居たのは私なのに、
何故こんなにも離れてしまったのか

どこか遠い人になってしまった


「君は、僕を恨んでいるのかな?」

「何故?」

「君の場所を僕が奪ってしまったから?かな?」

「意味を分かって言ってるの?」

「ああ、分かってるつもりだよ
だけどね、もうたったの一度でも、
あの場所の心地よさを知ってしまえば、
彼女から離れることなんてできないんだ」

「分かるわ、私にも。
最初こそ私は貴方や三成さんを恨んでいたけど、
そんなことはお門違いだって気づいたから、
だから私は貴方たちをどうこうしようなんて考えてないもの」

「ただね、私も彼女を意味は違えど愛しているの
だから、本当にあの人を幸せにしてくれなきゃ認めることはできないわ」

「ははは、認められるように頑張るよ。ライバルは多いだろうけどね」

「そうね」


半兵衛さんは笑っていたけど、
でもどこかに力強い思いも秘めて居て、
彼の決意が本物だということを物語っていた

まだ認めない
彼を認めてやることはできないけど、
でも彼女を思う彼の気持ちは本物だったから、
少しはそれを認めたいと思う


「遅くなってすまない」

「いえ、気にしないで。半兵衛さんとお話できてよかったわ」

「僕もねね殿とお話できてよかったよ」


そのあと半兵衛さんは席をはずして、
2人で久しぶりにいっぱい話した。

部屋の外で、
三成さんが椿に話しかけたそうにうずうずしているのが見て分かったけど見て見ぬ振り
だっていつでも彼らはこの人と話せるんだもの
独占できるんだもの

私の大切な大切な姉代わりのような人
そんな人とこんな風に過ごせる時間はもう少ないのかもしれない
けれどこの限りのある時間を大切に過ごすことが私にとって大事なことなんだと思う


「ねね、どうしたんだ」

「私、貴女が好きよ」

「私もねねを大切に思っているよ」


柔らかな彼女の膝に頭を預けながら
彼女の頬にそっと手を添えた



貴方じゃなきゃ意味がない



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タイトル/空想アリアさま
→あとがき






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