愛は惜しみなく与う
短編





優しく髪の毛を梳かれる感覚に目を開く
目覚めたばかりだからか、ぼーっとする感覚とともに彼の姿が目に入って、ああ、これはまだ夢なのかな?とふと思ってしまった。
けれど、この私の髪を愛おしそうに梳くぬくもりは、紛れも無い本物で、少しばかり戸惑った


「んっ・・・え、エース?」

「なんだ?まだ寝ぼけてるのか?旦那の顔も分からないわけないよな」

「えっ!?」


なんでエースが居るの?覚醒し出した脳は悩み始め
体はベッドから飛び起きる

あれ?なんで?エースは明日まで出張の筈で・・・
でも目の前に居る彼は確かに私の愛する旦那様である
パニック状態になりながら、おろおろする私を見てエースは笑みを漏らす


「何で?えっ?エース・・・だよね?ま、まさか・・・ドッペルゲンガーさんですか?」

「ドッペルゲンガーは喋らないんだろ?ほら、おれは喋ってるし、それに・・・」


ちゅっ


リップ音を残して額に当てられた彼の唇が離れた


「ドッペルゲンガーはこんなマネしねぇだろ?」


何をされたかがはっきりと頭の中で理解できた頃には私の顔はおそらく真っ赤に染まっていた


「馬鹿っ!帰ってくるなら言ってよ。仕事は?私朝ごはんの用意も何もせずに眠ってたじゃん」

「悪い。吃驚させたかったんだ。それにお前の寝顔も見たかった、し・・・な?」


申し訳なさそうに、でも照れたようにはにかむ彼に、私はもう何も言えない
それ以上に数日間会えなかった寂しさが込み上げてきた
それを実感したときには私はエースの胸に飛びついていて
エースも私をその逞しい腕でしっかりと抱きとめてくれた


「・・・今日、何の日か知ってるか?」

「・・・わかんない、なんかの記念日だったっけ?」


私が正直な答えを返すと返って来たのはエースの溜め息だけ
私は不安になりながらエースを見つめる


「馬鹿、そんな顔すんなよ。今日はお前の誕生日だろうが」

「えっ?」


カレンダーを見て理解した
ああ、そっか。今日は私が生まれた日
そんなことも忘れるぐらいにエースとの新婚生活に溺れていたのかもしれない


「だから帰って着てくれたの?」

「ああ、親父には言ってある。仕事も済ませてきたし、今日はフリーだ」

「じゃあ、明日まで出張だって言ってたのは?」

「本当だったんだが、その分仕事頑張ったから休み貰えたんだよ。吃驚させたかったんだ。悪かったな」


そんなのもうどうでもいい
彼が居る
私のために仕事を仕上げるまで頑張ってくれて、今日を共にしてくれる
それだけで十分すぎるほど嬉しい


「で、早速なんだけど・・・これ、お前にやる」


私の前に取り出されたものは、指輪
それをエースは私の左手の薬指を手に取るとスッとはめる
その様子を見てる私は呆然として、もしかしてと期待を込めながらエースを見やる


「俺達の結婚は一応形式的なもんだっただろ?俺の給料じゃ結婚式も挙げれなくて、満足に何かをプレゼントしてやることもできなかった。
だけど、今日、お前の誕生日にこれだけでも贈りたかったんだ」

「俺の薬指にも・・・ほら」


目の前でエースの薬指にも同じものがはまってるのを確認したら、もう涙が止まらなかった


「まだまだ経済面ではお前に迷惑掛けると思うが、でも俺のお前への愛は・・・それだけは本物で、変わることなんてねぇから。だから、これからも俺の奥さんで居てくれるか?」


「うっ、うん・・・当たり前だよ。私はいつまでもエースの奥さんで居たい」


そのあたたかくて、ごつごつした指が私の涙を掬う
私はやっぱり、この人が好きだ
この人じゃなきゃ駄目だ

抱きしめる腕は彼のじゃないと嫌
愛を囁くこの口は彼のじゃないと嫌

全てが彼だから好きになった

愛してる

そんなことばじゃ言い表せない。だけど言うよ


「エース、愛してる」


結婚式もしてないし、教会でもないけれど
それでも確かに神には誓える


健康の時も、病めるときも 富ときも貧しき時も、幸福の時も災いにあうときも、これを愛し敬い慰め助け 永久に節操を守ることを誓います


「俺もお前を愛してる」


そして降るのは甘いキスの雨


【その一瞬が愛おしい】




――――――――――――
愛するのり子へ!
エース夢をプレゼントする約束してたのと、
誕生日プレゼントをひとつの作品に・・・
ごめんなさい。サボり癖が出ました
エース初めてだからめっちゃ似非
現パロですが、エースの職業とか想像できなくてあやふやな感じに・・・
でも親父の下で働いてるのは間違いない!
とまぁ話がずれましたが、のり子、誕生日おめでとう!
のり子が生まれてきてくれて、本当に嬉しい
私と出会ってくれて、ありがとう。大好きっ!






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